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天狐あやかし秘譚
第127章 有為転変(ういてんぺん)
スクセはダリの前を通り過ぎ御九里の懐から懐剣を取り出すと、それをスラリと抜いた。意識は奪っていない。だから、今のスクセは、自分の身体が勝手に動いているような経験をしているのだ。
「やめて・・・水有・・・早くここから!」
まだ言うのか・・・。そうキヌギヌは思った。
この期に及んで白々しい。
スクセがギラリと月明かりに光る刃を揺らしながら、ゆっくりと綾音に近づいていく。
次にキヌギヌはその視線を綾音と御池に移した。この距離なら、二人同時に洗脳することも全く問題なくできるはずだ。
10秒
それが標準的な人間を取り込むのに必要な時間だった。その間、視野に捉え続けることができれば、キヌギヌは概ねの人間の心を絡め取ることができた。
『さあ・・・』
綾音の心の中が見える。昨日の記憶、一昨日の記憶、遡り・・・地狐とともに経験した山の主との戦い、いったん死んだ黄泉平坂でのイザナミとの対峙、貧乏神や疱瘡神との邂逅・・・
『心の底を見せろ・・・お前の化けの皮を剥いでやる』
人は綺麗事を言っていても、所詮、心の中には醜い気持ちを隠している。嫉妬、羨望、自己中心性・・・みんなみんな、自分のことしか考えていない。
『ほら、こいつだって・・・』
天狐を誰にも渡したくない。私だけを見て欲しい・・・なんで私だけこんなひどい目に・・・憎い、妬ましい、腹が立つ・・・
そんな気持ちばかりが視えてくる。いつもそうだ。人の心の内を覗けば吐き気しか催さない。
『もう少しで、お前の心の全部を・・・見通せるぞ』
キヌギヌは自身の視野が綾音の心の底に届くことを予感していた。キヌギヌの目は綾音の心の内に入り込み、奥の奥へと向かって降りていく。
もう少しだ・・・
そう思ったときだった。
「な!?」
思わず声が出た。それはこれまでにキヌギヌが経験したことがないことだった。
【真っ白】
綾音の心の底に広がるのは、なんの心も存在しない、ただただ無謬の空間だった。上も下も右も左も白い空間にいきなり放り出されたキヌギヌに一瞬、隙が生まれた。そして、このとき、キヌギヌは気づいていなかったが、自身の声も気配も歪ますことを忘れ、そのまま周囲に漏れてしまっていたのだ。
「やめて・・・水有・・・早くここから!」
まだ言うのか・・・。そうキヌギヌは思った。
この期に及んで白々しい。
スクセがギラリと月明かりに光る刃を揺らしながら、ゆっくりと綾音に近づいていく。
次にキヌギヌはその視線を綾音と御池に移した。この距離なら、二人同時に洗脳することも全く問題なくできるはずだ。
10秒
それが標準的な人間を取り込むのに必要な時間だった。その間、視野に捉え続けることができれば、キヌギヌは概ねの人間の心を絡め取ることができた。
『さあ・・・』
綾音の心の中が見える。昨日の記憶、一昨日の記憶、遡り・・・地狐とともに経験した山の主との戦い、いったん死んだ黄泉平坂でのイザナミとの対峙、貧乏神や疱瘡神との邂逅・・・
『心の底を見せろ・・・お前の化けの皮を剥いでやる』
人は綺麗事を言っていても、所詮、心の中には醜い気持ちを隠している。嫉妬、羨望、自己中心性・・・みんなみんな、自分のことしか考えていない。
『ほら、こいつだって・・・』
天狐を誰にも渡したくない。私だけを見て欲しい・・・なんで私だけこんなひどい目に・・・憎い、妬ましい、腹が立つ・・・
そんな気持ちばかりが視えてくる。いつもそうだ。人の心の内を覗けば吐き気しか催さない。
『もう少しで、お前の心の全部を・・・見通せるぞ』
キヌギヌは自身の視野が綾音の心の底に届くことを予感していた。キヌギヌの目は綾音の心の内に入り込み、奥の奥へと向かって降りていく。
もう少しだ・・・
そう思ったときだった。
「な!?」
思わず声が出た。それはこれまでにキヌギヌが経験したことがないことだった。
【真っ白】
綾音の心の底に広がるのは、なんの心も存在しない、ただただ無謬の空間だった。上も下も右も左も白い空間にいきなり放り出されたキヌギヌに一瞬、隙が生まれた。そして、このとき、キヌギヌは気づいていなかったが、自身の声も気配も歪ますことを忘れ、そのまま周囲に漏れてしまっていたのだ。

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