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天狐あやかし秘譚
第120章 十網九罠(じゅうもうきゅうわ)
☆☆☆
キュウウゥウウウウ

奇妙な音を立て、世界が灰色に染まる。そして、そのままDVDを途中停止したかのようにピタリと全てのものの動きが止まった。

辺津鏡の力を使って再生されていた記憶の再生を、術者である『水有』が一時停止したのだ。彼女は姉の記憶が再生されている世界の中で、視えない人間として存在し、ずっと見つめていたのだ。

色を失った世界の中、唯一色彩を持った『水有』がゆっくりとパーティールームの中を歩いていく。緋紅の前で少し恥ずかしげにうつむいている水無の後ろに立ち、その髪を優しく撫でていた。

うん、この日のこと、覚えているわ。

なるほどね・・・あのとき、お姉ちゃん、部屋に残ってたんだ・・・。それで、自分だけ、緋紅様に特別に声をかけて・・・。なんかおかしいと思ってたのよね。
でもまさか、こんな最初から抜け駆けしようとしてたなんて・・・お姉ちゃんたら。

このときさ、お姉ちゃん、もう気づいてたんじゃない?
私が、緋紅様に気持ちが傾いていること・・・。だからでしょ?だから焦ってこんなことをしたんじゃない・・・。

でもね、ふふ・・・私が全く知らないとでも思った?
あのとき、私さ、お姉ちゃんがこっそりと寝室を出ていったこと、気づいてたんだよ?

それに、お姉ちゃんが淫婦だってこと、私、とっくに知ってたんだからさ・・・。

ふふふふふ

『水有』は小さく微笑んだ。その頭上には、この記憶空間を支配する辺津鏡が中空に浮かび上がっている。記憶を覗き込むその古代鏡の表には、禍々しい黒い渦がゆっくりと蠢いていた。

さあ、私の辺津鏡・・・見せてちょうだい。
これから、お姉ちゃんが一体どんな方法で緋紅様に取り入ろうとしたのかを・・・そのいやらしく淫らな・・・一部始終を・・・

『水有』が水無から離れ、同じく静止している緋紅の方に歩み寄る。水無に優しい笑みを向けている緋紅の首に手をかけ、その唇にそっと自分の唇を押し当てた。

緋紅様・・・緋紅様・・・

しばらく唇の感触を味わった『水有』が再び辺津鏡を発動した。不思議な音とともに、記憶世界に色と動きが戻り、再び物語が動き始める。

それは、無垢な女子生徒だった二人が、緋紅の手により身体の底から愛奴となるよう変えられてしまった歪んだ愛の物語、その序章だった。
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