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天狐あやかし秘譚
第120章 十網九罠(じゅうもうきゅうわ)
「徐々にですが、ペースを取り戻してる感じ・・・です」
これは私の答え。
「ええ!新しいお友だちもできました」
これは水有の答えだ。たしかに水有は2学期の途中から復帰したにも関わらず、あっという間に部活も決め、早速いろんなお友だちと昼休みにワイワイとおしゃべりに興じていた。私もそんな水有に引っ張られて、一緒に学食でご飯を食べるので、寂しさや仲間外れ感はない。

本当に水有には感謝していた。

「そうか、それは良かった」
緋紅もそんな私たちを柔らかい笑顔で見つめてくれていた。
そんな緋紅に水有もなんだかぽわっとした視線を返していた。あとから考えると、このとき、そこに見たことがない熱がこもっていることに、私は気づかないふりをしてしまっていたのだ。

食事の途中、緋紅が次の日曜日は仕事が一段落するから、どこか楽しいところに三人で行こう、と言ってくれた。その提案に水有が喜びの声を上げる。

私たちにとって、旅行や外出はここ数年、経験がないことだったのだ。緋紅が行こうと提案してくれたのは、大阪にあるハリウッド映画をコンセプトにした複合アミューズメント施設だった。

「ね!ね!私、泊まり込みでいきたい!」
水有がすかさず言った。こういうことをサラッと言えてしまうのは水有のすごいところだといつも思う。緋紅は一瞬、考え込むような表情を見せたが、すぐに『いいよ』と言ってくれた。

「楽しみ!・・・ね、お姉ちゃん、ガイドブック買おうよ!」
水有はウキウキだが、私はちょっと心配してしまったのだ。
こんなに負担をかけて大丈夫だろうか・・・と。

父や母のことがあってからというもの、どうしても先行きを考えたときに、不安が先に立つようになってしまった。・・・もし、この緋紅という男性が、私たちをお荷物だと感じたら・・・一体どうやって生きていけばいいのかさっぱり見当がつかない。だから、できるだけ負担にはなりたくなかった。

「水無は?・・・あまり楽しみじゃない?」
なので、こんなふうに緋紅に聞かれたときも、私は曖昧な返事をすることしかできなかった。
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