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天狐あやかし秘譚
第119章 電光石火(でんこうせっか)
☆☆☆
【一方、ダリが京都支部に戻った頃の鞍馬山測候所跡にて】

はあ・・・はあ・・・はあ・・・

御九里に抱かれ、測候所跡まで撤退してきた私は、未だに震える身体を立て直すことができず、うずくまったような状態で荒く息をついていた。

暫くは天狐が追ってくるのではないかと不安だったが、10分経っても20分経っても何も起きなかったことから、やっと身の安全を確信することができた。

その間、御九里は人形のように私のそばに立ち尽くし続けていた。
そして、ここに来てやっとのことで私は、今起こっている事の異常さに気づいた。

いったい、なんで私は助かったの?

たしかにあの時、御九里や宝生前は気絶させられていた。百歩譲って彼らが目を覚ましたとしても、私自身が彼らに何も命じてなかった。

なのに、なぜ、彼らは私を助けるようなアクションを取ったのか?
そして、天狐はなんで追いかけてこないのか?

そこまで考えて、私の脳裏に一つの仮説が浮かんだ。

「まさか・・・」

周囲を見渡す。虚ろな目をしたまま佇む御九里以外、この空間には何者の気配も感じることはできない。まだ荒い私自身の呼吸音だけがやたらと強く響いていた。

『御九里と宝生前、お姉ちゃんの命令も聞くようにしておいたから』
そう、水有は言った。

私が電話でここを立ち去るように言った時は、『分かった』と、そう確かに言っていた。

じっと考え込む。
私の持つ沖津鏡が遠くと未来を視て、事実を『固める』のに対して、水有の持つ辺津鏡は人の心の内部を視て、それを『変化』させる。

変化・・・考えも行動も・・・そして、感じ方や見え方も?

ハッとして周囲をもう一度見渡した。
がらんとした部屋に呼びかける。

「水有!水有!・・・いるのね!?」

ふふふふふ・・・

私の声に応えるように、空間から笑い声が染み出してくる。それはぐにゃりと曲がったような奇妙な声だったが、次第に普通の声・・・水有のそれになっていく。

「やっと気づいた?お姉ちゃんてば」

すうっと闇の中から足を踏み出したのは私と同じ巫女服、ただし上着が薄桃色のそれを身に着けた私の片割れ、緋紅様からは『キヌギヌ』と呼ばれているもう一人の巫女だった。

その手には裏が黒の人の心を操る辺津鏡を携えている。
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