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天狐あやかし秘譚
第119章 電光石火(でんこうせっか)
今、自分の手にある神宝は沖津鏡のみ。攻撃力がある御九里と宝生前は天狐によって気絶させられてしまったのか、ピクリとも動かない。逃げようにも、周囲は陰陽師たちに囲まれているし、そもそも全く無傷の天狐から自分の足で逃げ出すことなど不可能としか思えなかった。

ー万事・・・窮す・・・なの?

冷や汗が背中を伝い、心臓がドキドキと震える。足に力がうまく入らずに呼吸のリズムすら掴むことができない。

一体どうやって天狐があの攻撃を無傷でくぐり抜けたのかわからない。しかし、現に目の前には圧倒的な威圧感を持った妖狐が存在している。

ざり、ざりっと天狐が歩みを進めてくる。それはスクセが持っている沖津鏡を求めてのことだった。ジリっと身体を手で擦って逃げようと試みるが、天狐が近づいてくるほうが遥かに早かった。

「さて・・・ぬしの神宝、よこしてもらおうか・・・」

無造作に手を差し伸べてくる。スクセはとうとう身体が震えだしてしまった。もう、抗うすべは彼女に残されていなかったのだ。

ーあ〜あ!

何処かから呆れたような声が響く。

「ん?」
何かの気配を察知したのか、天狐がその身を翻した。その瞬間、先程まで天狐がいた場所を銀色の剣戟の軌跡がなぞっていた。

とっさに後ろに飛び、身をかがめた天狐が見ると、先程自分が立っていた場所を鬼丸国綱改で斬りつける御九里の姿が目に止まった。

トトトトン!

天狐の周囲の地面に、数本の石釘が打ち込まれる。

「石鳴り 土公 南斗 黄門を閉じよ!」

呪言とともに、目の前にオレンジに揺らぐ結界がダリを包み込んだ。破ろうとするが、宝生前が胸元で印を形作り追加詠唱をしてその強度を増してくる。

『宝生前の結界か・・・厄介だな』
ダリがちっと舌打ちをする。

チラとスクセの方に目をやると、御九里が彼女を抱きかかえ森の中に消えていくのが見えた。

「逃がさぬよ」

その手に天魔反戈を召喚し、結界を破ろうとした時、天狐の耳に響く声があった。

「動いちゃダメ・・・ふふ・・・変な抵抗すると、ほら・・・この宝生前っていう陰陽師を殺しちゃうよ?」
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