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天狐あやかし秘譚
第118章 一落千丈(いちらくせんじょう)
『・・・してよ!』
『だって・・・っ!』

母はどうやらババやおじさんに何かを求めているようだった。でもその内容まではわからない。ヒステリックになっている母をなんとかババたちがなだめようとしているようにも聞こえた。

『おかしいわよ!』

ひときわ大きな声がして、私は肩をビクッとさせた。何かまたしてもよくないことが起こっている、そんな気がする。

でも、何ができるわけもない。
ここでこうして小さくなっている以外に、私にできることなどないのだ。

だって・・・母があれほど狂ったようになっている理由は・・・。

呼吸が荒くなる。目を見開き、頭を小刻みに振って、心に湧き上がってくる嫌なイメージを必死で追い払おうとする。しかし、何度そうしても、次々と後悔と共に溢れかえってくる記憶の断片の奔流を止めることなどできやしなかった。

お母さん・・・

心の中でごめんなさいを繰り返した。

あの日、私に向けられたおぞましいものを見るような母の瞳、
母に頬を張られて呆然とへたり込む父の姿、
私の手をぎゅっと掴んだ母の冷たい手の感触、
電話口で父に対して離婚を迫る強い口調・・・

頭の中にそれらの光景がぐるぐると回り続ける。

お願い!もう許して!!

頭を抱えてうずくまる。もう何も考えたくない、聞きたくない、見たくない・・・。何をしても、何をしなくても状況がどんどん悪くなる。

欲望にまみれた父の瞳、
赤黒いグロテスクなペニス、
私の性器を弄ぶ父の黒くいやらしい笑み・・・

そして・・・

快感に負け、メスの声を撒き散らし、よがり狂う自らの鏡に映った痴態・・・

もう・・・やめてっ!!いやああっ!!!

ぎゅうっと目をつむる。身体の奥がグズグズに腐り落ちていくような感覚。汚された、汚した、壊した、崩した、お前が、お前が・・・お前のせいだ!!

腹に手を入れて、臓物を引きずり出してしまいたいほどの不快感。
吐き気がして、目の前が暗くなる。

母はまだ『おばけの間』で叫び続けている。
何かが倒れる音がした。家の床が震え、誰かが怒鳴る声がする。
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