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天狐あやかし秘譚
第118章 一落千丈(いちらくせんじょう)
☆☆☆
母の行動は早かった。

私から父を引き離すと、父の頬を思いっきり張った。涙を浮かべ、唇をぎゅっと噛み締めたまま、何も言わずに全裸の私の手を引いて風呂場から連れ出した。

「こんなところにいられない!」

半狂乱になりそうなのを必死にこらえているのは、私から見てもよく分かった。現実感がわかないまま、私がノロノロと服を着ている内にあっという間に大きめのバッグに次々と財布だの印鑑だの通帳だのを詰め込むと、あっという間に家を飛び出してきた。

その日から1週間、私たちは母が手配したウィークリーマンションに滞在することになる。その間に母は離婚届を父に送りつけ、あっという間に父との離婚を成立させていた。

しかし、ずっとウィークリーマンションに住み続けるわけにも行かない。さりとて、母の親戚筋は縁遠く、頼れる人がいない。結果、皮肉なことに、母が頼ることができたのは、父の実家、藤塚の家だったのである。

幸い、母と祖母、おじさんとの関係は悪くなかった。それでも、突然大荷物を抱えて家に転がり込んできた母と私たちを見て、ババとおじさんはたいそうびっくりした顔をしていた。

「一体、どないしたんえ?」

ババが口を開き、とにかくこっちにと母を『おばけの間』に招いた。ババたちが話をしている間、私たちはもともと自分たちがいた部屋にいるように言われていた。

水有はまるで世界から自分を断絶しようとするみたいにヘッドフォンをつけてスマホで音楽を聞き始める。一方、私はどうしても母とババたちとの会話が気になってしまうが、とてもじゃないけれども恐ろしくて『おばけの間』に行くことはできなかった。

ただ、もんもんとしたまま時間だけが過ぎていく。

しかし、最初こそ普通の音量で話していたようだった母の声が次第に大きくなるのが分かった。何を言ってるのかわからないけれども、大分強い口調で言い合ってるように聞こえる。チラと水有の方を振り向くが、水有はヘッドホンを付けたまま積んだままの布団に寄りかかって壁の方を向いたきり、何も反応をしていない。

『・・・なのよ!』
『どういうこと!?』

母の声が漏れ聞こえてくる。合間に低い声が聞こえるのはおじさんのようだったが、聞き取りにくくてそっちは何を言ってるかわからなかった。
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