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天狐あやかし秘譚
第111章 真実無妄(しんじつむもう)
ぎりぎりと首を絞め上げられ、あっという間に脳が酸欠に陥る。意識が混濁し、世界が白く染まっていく。かろうじて開いている目の視界の端では、まだ興長と不知火の君が一進一退の攻防を繰り広げているのが見て取れた。

クソ・・・まずった・・・
僕が気絶すれば、不知火の君も消える。
そしたら・・・もう。

その時に、僕の心に浮かんだのは、自分の命でもなければ冥穴の心配でもなかった。

色麻・・・さん・・・。
彼女を守れないのが、悔しくてたまらない。

ちっちゃい身体で、いつも精一杯、背伸びをしている。
僕がちょっとからかうと顔を真赤にして怒るし、
何かというと年上ぶって、あれこれ口うるさくて。
実力も知識も僕のほうが上だ。

なのに、不思議と他の誰よりも信頼できる・・・女性(ひと)

彼女のことを思い出したら、こんなときなのに、唇の端が少しほころぶ。
「・・・園寺様っ!・・・西・・・寺様!!!」

彼女の声の幻聴まで聞こえる。
ああ・・・そうだよ。今日も色麻さん、僕のこと、本当に心配して・・・

「西園寺様ぁあ!!!」

それは絶叫に近かった。
耳をつんざくほどのその声が、幻聴などではないことにやっと僕は気づく。

「色麻・・・さん・・・?」
「受け取ってぇっ!!!」

何かが空を切って空中を飛んでくる。
僕は途切れそうな意識を繋ぎ止め、その音だけを頼りに中空に手を伸ばした。

バシン!

手に馴染む、いつもの感触。

これは『雷炮神器』・・・っ!?

握りしめたグリップから、僕の身体に一気に呪力が流れ込み、体中に力が漲るのを感じる。

ドゴン、ドゴン、ドゴン!

そしてそのまま、目の前の和羽に向かって呪力弾を乱射した。

「ぐがぁあっ!!」

ドサリと僕の身体が地面に落ちる。どうやら乱射した内の何発かが和羽にヒットしたらしい。咳き込みながらもなんとか目を開き、見ると、和羽が両目を押さえ後ずさるのが見えた。

両目のあたりから血がぼたぼたと流れ落ちている。乱れ撃った弾がたまたま彼女の両目を射抜いたようだった。

げほげほげほっ!

苦しさのあまり、胃の中のものを吐き出しそうになるのをなんとか押さえながら立ち上がろうとする。霞む目を無理やりに開くと和羽が踵を返して走り出すのが見えた。
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