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天狐あやかし秘譚
第111章 真実無妄(しんじつむもう)
昔は本当に負けた『子』を鬼に喰わせることくらいしたかもしれない。

「ひどい・・・。」

色麻さんが再び和羽の方に目を向ける。確かに大武丸を受け継いでからの和羽は以前よりもギラついているというか、凶暴性が増しているようにも見える。それが大武丸を宿したことによる効果なのか、蠱毒法のせいなのか、はたまたその両方なのかはわからないが・・・。

「さて・・・準備ができたわ。」

和羽が振り返る。その身体は鬼化こそしていないが、眉間には深い皺が刻まれ、冷たくこちらを見下しているその顔貌は、鬼のそれといっても差し支えないほど残虐な気配を帯びていた。

「殺しちゃってもよかったんだけど、あなた達も見たいでしょ?冥穴が開く様を」

ニタリといやらしい笑みを浮かべる。
その表情を見て、僕は思った。

いや、凶暴性じゃないな・・・あれは嗜虐性だ。

どちらにせよ、鬼に相応しい特質ではある。
準備ができたというのは、どうやら冥穴の正確な場所を特定したということのようだった。冥穴が開く場所は時とともに微妙に移動する。しかも、先程の小競り合いで呪力のぶつかり合いがあったことで、その揺らぎがより大きくなっているはずだ。

そして、その正確な場所が特定できなければこじ開けるのにしても時間がかかるというわけだ。

色麻のような祭祀霊術に詳しい人間ならまだしも、通常の人間ではたとえ鬼を宿していたとしてもすぐには特定できないだろう。

「あの、西園寺様・・・西園寺様!」
色麻さんがコソコソと話しかけてくる。
だが、今はそれどころじゃない。

この状況をなんとかしなくてはいけない。

どうやら冥穴の場所はすでに特定されてしまったようだ。あの興長とかいうやつの能力のせいかもしれない。

あいつは一体何者だ?

普通の人間ではない。あやかしでもなさそうだ。
さりとて悪霊の類というわけでもない。

そして、あいつこそが、何らかの目論見があって和羽や時弥に冥穴を開くようそそのかした張本人だということも分かった。

『代償は、これを開くこと・・・。それだけで間違いないわね?』
確かに和羽はそう言っていた。興長と和羽が取引をしたということだ。
おそらく前は時弥と取引をしていたのだろう。

あの夜、僕たちが冥穴を塞ぎに来たので、時弥は興長との契約がゆえに、そこを急襲してきた・・・そんなところか?
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