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天狐あやかし秘譚
第110章 機略縦横(きりゃくじゅうおう)
☆☆☆
午前2時・・・その昔、丑三つ時と呼ばれた宵闇が最も深くなる時刻。
すべての警戒が解かれ、静まり返ったその建物の廊下に異形が蠢いていた。
それは巧妙に光を避け、人目につかないよう細心の注意を払う。
窓から差す街の明かりが、床にその影を刻む。
隆々と張り出した筋肉、
ザンバラの髪、
そして、頭からは異形の印たる、角が伸びていた。
目標とする部屋にたどり着くと、そっと扉を開く。
なんの抵抗もなく開く扉。
その向こうもまた、闇に覆われていた。
慎重に中の気配を探り、自らの脅威となるものが存在しないことを確認すると、影はそこにするりと滑り込んでいく。
ひたひたひた
ひたひたひた
ささやかな足音だけが暗闇を揺らす。
そしてついに、異形は目的とするモノの前に立った。
姿、匂い・・・そして何より気配が教える。
間違いなく、求めていた獲物だった。
とうとう成就する。
若干のイレギュラーはあったが、概ね望み通りだ。
そんな思いに、いびつな牙の伸びる口元がニヤリと歪んだ。
ゆっくりとソレに手を伸ばす。
ここまでくれば事をなすのは容易いと知っているのだ。
じっくり、じっくりと痛めつければいい。
これまでの恨みつらみをすべて込めればいい。
やることは簡単だ。
手の内に、淀んだ鬼気を送り込み、ソレを注ぐだけ。
鬼気とは陰気だ。
陰気は陽体を蝕み、内側から腐らせる。
傍から見たらそれは、単なる病死に見えることだろう。
全身から重い鬼気が立ち上る。それは腕を伝い、手のひらに集まり、闇より深い闇となってわだかまる。
後は、これを注げばいい。
この男・・・大武朔弥に・・・
ビィイイン!
ビィイイン!
なにかが空気を震わせる。
そして、異形は自らの身体が突然、鉛のように重くなったことを感じた。
「なっ・・・!」
声を上げたとき、パチンと部屋の明かりが点く。
ぐうぅ・・・
光に照らされ、鬼がうめき声を上げる。
その姿は、恐山で西園寺と邂逅したあの悪鬼だった。
その足元には墨字で五芒星が描かれており、部屋の四隅には注意して見ないとわからないほどの小さな祭壇が設えてあった。
「やっぱり、あなたが鬼だった・・・大武・・・時弥さん」
午前2時・・・その昔、丑三つ時と呼ばれた宵闇が最も深くなる時刻。
すべての警戒が解かれ、静まり返ったその建物の廊下に異形が蠢いていた。
それは巧妙に光を避け、人目につかないよう細心の注意を払う。
窓から差す街の明かりが、床にその影を刻む。
隆々と張り出した筋肉、
ザンバラの髪、
そして、頭からは異形の印たる、角が伸びていた。
目標とする部屋にたどり着くと、そっと扉を開く。
なんの抵抗もなく開く扉。
その向こうもまた、闇に覆われていた。
慎重に中の気配を探り、自らの脅威となるものが存在しないことを確認すると、影はそこにするりと滑り込んでいく。
ひたひたひた
ひたひたひた
ささやかな足音だけが暗闇を揺らす。
そしてついに、異形は目的とするモノの前に立った。
姿、匂い・・・そして何より気配が教える。
間違いなく、求めていた獲物だった。
とうとう成就する。
若干のイレギュラーはあったが、概ね望み通りだ。
そんな思いに、いびつな牙の伸びる口元がニヤリと歪んだ。
ゆっくりとソレに手を伸ばす。
ここまでくれば事をなすのは容易いと知っているのだ。
じっくり、じっくりと痛めつければいい。
これまでの恨みつらみをすべて込めればいい。
やることは簡単だ。
手の内に、淀んだ鬼気を送り込み、ソレを注ぐだけ。
鬼気とは陰気だ。
陰気は陽体を蝕み、内側から腐らせる。
傍から見たらそれは、単なる病死に見えることだろう。
全身から重い鬼気が立ち上る。それは腕を伝い、手のひらに集まり、闇より深い闇となってわだかまる。
後は、これを注げばいい。
この男・・・大武朔弥に・・・
ビィイイン!
ビィイイン!
なにかが空気を震わせる。
そして、異形は自らの身体が突然、鉛のように重くなったことを感じた。
「なっ・・・!」
声を上げたとき、パチンと部屋の明かりが点く。
ぐうぅ・・・
光に照らされ、鬼がうめき声を上げる。
その姿は、恐山で西園寺と邂逅したあの悪鬼だった。
その足元には墨字で五芒星が描かれており、部屋の四隅には注意して見ないとわからないほどの小さな祭壇が設えてあった。
「やっぱり、あなたが鬼だった・・・大武・・・時弥さん」

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