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天狐あやかし秘譚
第110章 機略縦横(きりゃくじゅうおう)
☆☆☆
夜の市立中央病院は森閑としている。

時折、病棟を巡回するナースの足音だけが無機質に廊下に響いていた。
外科病棟は今日はいつになく静かだった。ナースステーションに詰めている4人の看護師は、暇を持て余し、噂話に余念がない。

「ねえ、408・・・特別室の患者さん、知ってる?」
「え、あ、あの、銃で撃たれたっていう?」
身を乗り出すようにして話しだした斎藤の言葉に、木島が反応する。斎藤はゴシップ好きでナース仲間の中でも有名だった。

「そうそう。警察が24時間マークしているって、一体どんな重要人物?って感じ」
遠藤が話に乗ってきた。先程まで看護記録をつけていたが、一段落したらしい。

「え?あんたたち知らないの!?・・・大武さんって、あの大武グループの次期社長なのよ」
「ええ!」
斎藤の話に木島と遠藤が同時に声を上げた。

「どうりで警戒厳重なわけだ」
「どうもね、ヤクザに襲われたってことみたい」
相変わらず、どこで仕入れてくるのかわからない情報を斎藤は披露する。

「じゃあ、何?またヤクザが襲ってくるかもってこと?
 だから警察官二人もいるわけ?」
「そゆこと」
「なにそれ、こわ!」
わざとらしく怖がる遠藤の声に、一同がどっと笑う。

「こらこら!あなた達、おしゃべりも大概になさい。
 405号室でナースコールよ、行って」
緩んだ空気をビシッと締めたのは一番年上のベテラン看護師、酒井だった。ナースコールは基本的には担当が決まってる。405号室に入っている患者は木島の担当だった。
 
木島は準備を整えて、パタパタと小走りに病室に向かった。
405号室は、件の408号室の手前にある。なので、みようとしなくても408号室の様子が目に入る。

入口には長身の男性警察官と、木島よりも小柄な女性警察官が立っていた。

『女性の警察官も泊りがけで警護とかするんだ。
 大変だな・・・』

帽子を深く被っているので、表情を窺うことはできないが、その凛とした姿勢は女性だとしてもやっぱり頼りがいを感じてしまう。

男性の方も帽子を目深に被り、びしっと前を向いて立っている。口元しか見えないが、涼やかな感じで、もしかしたら結構なイケメンなのかもしれない、などと場にそぐわないことまで考えてしまった。
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