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天狐あやかし秘譚
第108章 匿影蔵形(とくえいぞうけい)
「それはほぼ心配しなくていいと思われます。会社のセキュリティ上、社員証がないと正門はおろか、通用口すら開けられません。柵を乗り越えるなどして無理に侵入しようとすれば警備会社に通報される仕組みです。」

ちなみに通用口からの出入りが確認されているのは、社員の皆本と坂本、鳴海だったようだ。

「外出していた時間としては皆短いですね。皆、近くのコンビニに買い物に行ったと証言しています。戻ってきた時間的に、西園寺さんが鬼を見失った時間とはだいぶ離れていますし、コンビニの防犯映像も確認しているので、本件とは無関係である可能性が高いです。」

・・・要するに、鬼が会社の通用口から入り込んだと目される時刻、出入りした『人間』はいない、ということだ。

「んん・・・これは・・・」

もしかしたらまるで見当違いの捜査をしていたのかもしれない・・・そんなふうにすら思えてきた。

「今日わかったことはここまでか・・・
 うん、明日、和羽と残りの社員の聴取は僕が引き受けるよ」
西園寺が話をまとめた。

「あ!それなら私も!」
色麻がすかさず手を上げたが、それを西園寺が制止した。
「いや、色麻さんは県警に残って支部と・・・それから本庁への連絡要員を務めてください。」

全く見当違いなのかもしれない、そうは思ったのだが、西園寺の胸になにか引っかかるものがあった。

見失った鬼、森の中に消えた白い影、そして通用口についた血痕・・・

それが言葉になってまとまることはなかったのだが、嫌な予感だけがあった。

だからこそ、非戦闘員であるところの色麻には前線にきてほしくない・・・
そんな思いがあったのだ。

逆に、色麻としては、西園寺の普段の行状を知ってるだけに心配という面が半分、もう半分はやはり年長者としての威厳を保ちたいというのがあったのだが、きっぱり命じられては何も言い返すことはできない。

「わかりました」
そうは言うものの、その顔にはちっとも納得してません、しっかり書かれているのだった。
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