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天狐あやかし秘譚
第108章 匿影蔵形(とくえいぞうけい)
♡ーーーーー♡
【匿影蔵形】物事の本当のことを隠すこと。
息を潜めて、潜伏しちゃうぞ♪・・・みたいな。
♡ーーーーー♡

カタカタカタ・・・
静謐な執務室にキーボードの音だけが無機質に響く。時折そのさざなみのような音が止まるのは右手の中指でメガネをくいと引き上げるときか、ないしは傍らに用意された冷めきったコーヒーを飲むときだけだった。

もちろん、彼の有能な秘書が用意したときには適温のコーヒーであったのは言うまでもない。

そんな彼の手がまた止まった。
じっと画面を見つめる。

画面にはメッセージの到着を知らせポップアップが出ていた。クリックすると、画面いっぱいに『大武エレクトロン・部門別粗利・6月(速報値)』というタイトルの付いた複雑な帳票だった。

男性はそれをみて少しだけ口元を緩ませた。しかし、それもまた一瞬のことだった。素早く下までスクロールすると、見るべきものは見たとばかりに帳票を閉じる。

再びウィンドウを先程まで作業していたアプリに切り替えると、キーボードに指をすべらせていった。

コン、コン、コン

今度は、その作業も5分と続かなかった。ノックの音が男の集中を阻害する。

ただ、この音は・・・

ふぅと息をつき、入室を許可する。音もなく開いた扉からは秘書らしき女性が入ってきた。

清潔感を感じさせるペールグレーのテーラードスーツ、そこに黒のレース素材のインナーを合わせていた。足元は黒色のパンプスを身に付け、キリッとした印象を与える。しかし、表情はどこか人好きのする柔らかさを保っていた。丸いフレームのメガネとあえてふわっとしたパーマをあてたボブカットの髪型も、彼女の愛嬌というか、可愛らしさを引き立てていた。

「社長、青森県警の方がお見えです」
「少し早いな」
「待たせますか?」
「いやいい、出よう・・・それと、吾嬬(あずま)くん・・・社長というのは・・・」
「失礼しました。大武朔弥社長・・・『代理』」

吾嬬と呼ばれた女性は、ニコリと笑って見せる。その表情からも、決してその呼び間違いが単なるミスだったわけではないことを如実に告げていた。

「まだ早い」
男・・・朔弥は素早く吾嬬の側によると、ピタリと身体を密着させ、その手を臀部に這わせる。
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