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天狐あやかし秘譚
第107章 【第21話 冥穴】居安思危(きょあんしき)
☆☆☆
「ダメだ・・・見失った・・・」

西園寺は暗い山道で途方に暮れていた。恐山を飛び出した鬼は、追跡者がいることが分かったのかもしれない。それを撒こうとしたのか、真っ暗な山道をめちゃくちゃに走り回った。

ただでさえ、タフな鬼を追いかけるのに苦労すると言うのに、足場の悪い山道ときている。普段の訓練の賜物とは言え、西園寺が食らいついたのは奇跡と言えるかもしれない。もちろん視認できたわけではなく、鬼の気配をたどって追いかけてきたのであるが、どうやら途中で鬼気を潜めたらしく次第に追うのが難しくなってきた。それでも、滴り落ちる血の跡を追ってなんとかここまで来たものの、とうとうそれも尽き果て、見失ってしまったのだ。

もしかしたら人間へと擬態するタイプ、もしくは、あまり考えたくないが、人に取り憑いているタイプの鬼なのかもしれない。

そうなると、鬼気を引っ込められれば一見ただの人間と見分けがつかなくなる。

『いや、むしろ、鬼の再生力で傷が癒えたから、人の姿へと変化したということか・・・?』

もし、そうだとすると、第三の可能性がある。
それは、あの鬼が『鬼の力を持つ人間』だという可能性である。

非常に稀なケースだが、『鬼憑き』と言われる家系がある。一説によれば、祖先が鬼と交配したことで、鬼の血を引いているとも言われており、ある特定の鬼の力を次世代に引き継いでいく事ができるらしいのだ。その存在は知っているものの、西園寺自身もこれまでに出会ったことはなかった。

とりあえず支部に連絡をとスマホを取り出した。しかし、山中でやはりスマホは繋がらない。仕方がないので、耳を澄まし、道路がありそうな方に歩を進める。幸運なことに、5分も歩かない内に簡易舗装の道路に出ることができた。出たところはちょうど三叉路で、左右に少し広めの車道、右手の向かい側には斜めに走る少し暗い道があった。どうやら何かの施設に続く道らしい。

とりあえず連絡をと考え、通話ボタンを押そうとしたとき、ふと視界の横に何かが閃くのを見た気がした。

っ!?

それは正面の暗い細道だった。見間違いかとも思ったが、確かにふわりとした白い布のようなものが木陰に消えていくのが見えたのだ。
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