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天狐あやかし秘譚
第107章 【第21話 冥穴】居安思危(きょあんしき)
更にもう一発、西園寺様の拳銃が火の呪力を乗せた弾丸を闇の獣に向かって放つ。くぐもった声とともに影がゆらりと揺らぎ、がくんと膝をつくように崩れ落ちた。あの影が、人が鬼と化した『人鬼』だとしたら、雷炮神器で3発も撃ち抜かれてはしばらくは動くことはできないだろう。

西園寺様が雷炮神器を油断なく構えながら、ジリジリと影との距離を詰めていく。影は時折ブルっと震えており、まだその活動を止めてはいないようだが、先程までの勢いは失われているように見えた。

良かった・・・

そう思った刹那だった。ふと冥穴に注意を向けた私は思わず目を見開いた。

「あ・・・っ!いけない!」

黒い影が放つ鬼気に刺激され、内部の圧が高まった冥穴はひび割れ、破裂寸前になっていたのだ。

塞がなきゃ

とっさにそう思った私は、地面に押さえ込むようにして私を守ってくれていた武田の体の下から這い出し、冥穴に駆け寄っていた。

少しでも、霊力を注いで穴を補強しなくてはという一心だった。
祭祀が中断されてしまった以上、私自身の霊力しか頼るものがないけれども、何もしないよりマシだと判断したのだ。幸運なことに武田の四音結界のお陰で、場の清浄性は多少なりとも取り戻している。あとは私の簡易結界術で少しでも抑え込んで時間を稼げば・・・そう思ったのだった。

しかし、この判断はまずかった。
私はあの黒い影の正体を見誤っていたのだ。

「結界から出るな!」
西園寺様が鋭く声を上げる。しかし、ときすでに遅しだった。大幣を手に駆け出した私の体は、武田の四音結界の効果範囲から出ようとしていた。

「ぐぉおおあっ!!」
影がドン、という音と共に私に向かって跳躍をしてきた。丸太のような手を振り上げ、襲いかかってくる。星影に照らされ、やっと私にその顔が認識できた。

それは眉間が盛り上がり、目が大きく吊り上がっているひどく歪んだ人の顔だった。食いしばった口元からはギラリと白い牙が覗いている。そして、その頭には異形の角が見えた。

・・・こいつ、ただの人鬼じゃない!?
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