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天狐あやかし秘譚
第107章 【第21話 冥穴】居安思危(きょあんしき)
☆☆☆
【宮内庁陰陽寮東北支部にて】

まだ7月に入ったばかりで梅雨明けには程遠い。今日も朝からぐずついた天気で、湿度が高いのが気に入らない。

東京ならもう少し梅雨明け、早いんじゃないだろうか?

そんな思いがどうしても頭をよぎってしまう。

「西園寺様!聞いてらっしゃいましたか?」

東北支部の飾り気のない部屋からぼんやりと窓の外を眺めていた男、西園寺がその声にビクンと体を震わせる。

「・・・えっと・・・き、聞いてたよ?」
そう答えては見たがホワイトボードの前に立ち、今日の会議内容の連絡をしていた祭部の陰陽師・色麻樹里(しかま じゅり)は眉間にシワを寄せる。

「じゃあ、なんて言いました?私」
会議室にいる総勢10人ほどの陰陽師が、最も上座に座る、ここ東北支部の支部長格である西園寺正成(さいおんじ まさしげ)の方に一斉に目を向けた。

「あ・・・えーっと・・・冥穴(めいけつ)が・・・開いた?」
ホワイトボードに貼られた東北管区内の地図に大小さまざまな赤い点が記されており、その中でもひときわ大きな点が、青森県は陸奥湾の北に位置する下北半島の中央部につけられていた。その地図の上には『冥穴測定結果』と描かれている。

西園寺の発言は、この図を見ての推測であった。
要は話をよく聞いてなかったのである。

「違います!開いたらエライコッチャです。
 いいですか?もう一度言いますよ?」

色麻はここ数週間、占部衆が観測した日本全国の霊気の乱れと、その乱れの原因と目された『冥穴のほころび』についての報告を繰り返した。陰陽寮本庁から、全国支部に一斉調査の依頼がきているというのだ。

「先日のまつろわぬ民達による、黄泉平坂の解放事件・・・通称『黄泉平坂事案』の影響と見られています。日本各地の霊場で冥穴のほころびの兆候が見られているそうです。各支部にあってはそれらが開ききらないよう、調査、分析、場合によっては細心の注意をはらい、封印処置に当たられたし・・・これが本庁からの依頼です。」
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