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天狐あやかし秘譚
第97章 【第19話:地狐】温慈恵和(おんじけいか)
そんな記憶があったものだから、『もしかして、母が乗ったら飛行機落ちたりして・・・』とか思った・・・というわけだった。もちろん、『お母さんが乗ると飛行機落ちるかもしれんから陸路で来て』などとは言えないわけで、そのままこさせたのであるが、そうしたら、この『空港のシステムトラブル』である。偶然だとは思うのだが、よもや母の『魔力』のせいで大勢の人の足に影響が出たのかもと考えると、若干恐ろしい気はした。

まあ、ちょっと話がそれたが、このようなトラブルに見舞われたせいで、結局母が綿貫亭に到着したのは、予定していた時間よりも6時間も遅い午後9時のことだったのである。

「途中で電話してくれれば迎えに行ったとに・・・」
「大丈夫っちゃ、子どもやないんやけ」

ダイニングでお茶を飲みながら母がおっとりと笑う。いや、大人だというのは分かってるんだけど、昔からちょっとぽやぽやしているので危なっかしくはあった。でも、どうやらスマホの地図を頼りにちゃんとたどり着けたようだった。

『まま・・・』
清香ちゃんがくいくいと手を引く。

うっ・・・と息が詰まる。そっちを向きたいけど、今、母の目の前で清香ちゃんに顔を向けるわけにはいかない。

「あ!そうだ!!お茶菓子あるけね、ちょっと持ってくるけんね」
そそっとキッチンに。その後ろを清香ちゃんがトコトコついてくる。

「えーっと・・・お茶菓子、お茶菓子っと・・・」
探すふりをしてキッチンテーブルの影にしゃがみ込んで、清香ちゃんに
「なーに?」
と小声で尋ねる。
『あのね、清香ね、折り紙できたの!』
清香ちゃんも私に合わせて声を潜めてくれる。見ると、芝三郎に教わったのだろう、見事なうさぎの折り紙がちょんと手に乗っていた。
「すごいねえ!きれいきれい!」
頭を撫でてあげると、にこーっと笑って、そのままパタパタとソファに向かって走っていった。ソファには芝三郎が座って本を読んでいたし、ダリがうつらうつらと居眠りをしている。

『お母さんがいる間は、大人しくしてて』
という私の言いつけを三者三様の方法で守ってくれているのだ。
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