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天狐あやかし秘譚
第77章 背水之陣(はいすいのじん)

☆☆☆
ー 月のない夜ってのは暗いもんだな。
カダマシは簡易舗装の道路を黄泉平坂に向けて歩いていた。右手は山肌、左手には木がまばらに生えていて、その向こうに陰鬱な沼地が広がっている。空に星はあるものの、街灯もなく、真っ暗闇であった。
その中にあって周囲の様子を認知し、普通に歩けているのは、とりも直さず彼が自身の身体の機能を自在に操れるからに他ならない。今は、目を夜行性の獣のそれに近い性能にしている。
ついでに聴覚、嗅覚、触覚も鋭敏にしていることから、音、匂い、空気の流れ、あらゆる事柄がカダマシに周囲の状況を知らせてくれる。
ー妙だな?
周囲にはほとんど人の気配がなかった。
隠れているならその息遣い、匂いなどで存在を知ることができるはずだ。隠形術かとも思ったが、いかに高度な隠形術とはいえ、すべての感覚を研ぎ澄ませた自分を誤魔化しきれるとは思えない、それがカダマシの考えだった。
だとすると、考えられることはひとつだった。
前方にある、唯一の気配。
あのひとりで、全てを迎え撃つ気、ということだ。
一瞬、昨晩のことが頭を過ぎり、上空から飛び降りてくる気か?とも思ったりした。
しかし、すぐにその可能性を否定する。
こちらは最初から全力で叩くつもりだ。戦力を分散させる意味がない。
ちらりと時計を見ると10時43分を回っていた。約束の時間まであと2分だった。
ーとりあえず、予定通りに行こう。
そう考えて、カダマシは黄泉平坂の鳥居が望めるところまで来た。目を凝らすと、先程100メートル先から見た時は分からなかったが、石碑の前に一人の男が立膝をして腰を下ろしている。その右手には直剣を持ち、剣先は地面に突き刺さるように立てられていた。
ふざけたアロハシャツと短パンのような服装。
およそ陰陽師には見えないその姿を見て、カダマシは状況に得心がいった。
ーなるほど・・・向こうさんもまた、局所的最大戦力で迎え撃つ、というつもりなわけか。
時計を見ると、予定時刻まであと30秒だった。
ーひとりなら、そのまま突っ込んでもいいのかもしれないが、慎重にいかせてもらう。
この短期間にカダマシは若干であるが、驕った気持ちを弱めてきていた。むしろ、これ以上失敗はできない、という思いの方が強くなっていたのだ。
ー 月のない夜ってのは暗いもんだな。
カダマシは簡易舗装の道路を黄泉平坂に向けて歩いていた。右手は山肌、左手には木がまばらに生えていて、その向こうに陰鬱な沼地が広がっている。空に星はあるものの、街灯もなく、真っ暗闇であった。
その中にあって周囲の様子を認知し、普通に歩けているのは、とりも直さず彼が自身の身体の機能を自在に操れるからに他ならない。今は、目を夜行性の獣のそれに近い性能にしている。
ついでに聴覚、嗅覚、触覚も鋭敏にしていることから、音、匂い、空気の流れ、あらゆる事柄がカダマシに周囲の状況を知らせてくれる。
ー妙だな?
周囲にはほとんど人の気配がなかった。
隠れているならその息遣い、匂いなどで存在を知ることができるはずだ。隠形術かとも思ったが、いかに高度な隠形術とはいえ、すべての感覚を研ぎ澄ませた自分を誤魔化しきれるとは思えない、それがカダマシの考えだった。
だとすると、考えられることはひとつだった。
前方にある、唯一の気配。
あのひとりで、全てを迎え撃つ気、ということだ。
一瞬、昨晩のことが頭を過ぎり、上空から飛び降りてくる気か?とも思ったりした。
しかし、すぐにその可能性を否定する。
こちらは最初から全力で叩くつもりだ。戦力を分散させる意味がない。
ちらりと時計を見ると10時43分を回っていた。約束の時間まであと2分だった。
ーとりあえず、予定通りに行こう。
そう考えて、カダマシは黄泉平坂の鳥居が望めるところまで来た。目を凝らすと、先程100メートル先から見た時は分からなかったが、石碑の前に一人の男が立膝をして腰を下ろしている。その右手には直剣を持ち、剣先は地面に突き刺さるように立てられていた。
ふざけたアロハシャツと短パンのような服装。
およそ陰陽師には見えないその姿を見て、カダマシは状況に得心がいった。
ーなるほど・・・向こうさんもまた、局所的最大戦力で迎え撃つ、というつもりなわけか。
時計を見ると、予定時刻まであと30秒だった。
ーひとりなら、そのまま突っ込んでもいいのかもしれないが、慎重にいかせてもらう。
この短期間にカダマシは若干であるが、驕った気持ちを弱めてきていた。むしろ、これ以上失敗はできない、という思いの方が強くなっていたのだ。

