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天狐あやかし秘譚
第77章 背水之陣(はいすいのじん)
☆☆☆
【午後10時38分 島根県松江市出雲町揖屋】

月のない夜は更け、森閑としている。

伝説上の『黄泉平坂』であるとされているこの場所は、昼間こそは観光地のひとつとして訪れる人もいるが、この時間に訪れる観光客はいない。ましてや地元の人であればなおさらである。

石で作られた簡素で古びた鳥居にしめ縄が張られ、その奥が神域であることを示している。奥に社殿のようなものはなく、石碑がひとつと、その奥に大ぶりの石が三つ並んでいるのみである。
そこにある広場は20平方メートル程だろうか。
10人程度が入ればいっぱいになってしまうほどの空間しかなかった。

周辺は雑木林と小さな沼に囲まれており、200メートルほどいかないと人家はなかった。そして、そこまで行ったとて、田畑に隔てられてぽつりぽつりと民家が点在しているようなところである。

一番近い幹線道路は国道9号線だが、そこも通る車は少なかった。

聞こえるものといえば、時折飛び交う猛禽類の羽ばたきと、小動物が木の葉を踏む音くらいだった。

そんな暗い空間を100メートルほど離れた森の木の上から眺める二人の人影があった。

「んで?あれが『黄泉平坂』だと?」
「だ、そうだ」
「坂じゃねえじゃん」
「知るかよ」

ひとりは身長が二メートル近くある大男。もうひとりは痩せぎすで貧相な顔立ちをしている男性だった。貧相な方は肩から白い領巾をかけている。大男の方はそのままの目で100m先の暗がりを見ているようだが、貧相な男は赤外線暗視スコープを通して状況を把握しているようだった。

「一見何もいねえようだけど・・・んなわけねえか」
「あるかよ、んなこと。お館様も待ち伏せしてるって言ってただろ?」
「そうだよなあ・・・。はあ、面倒くせぇが・・・じゃ、ま、予定通りに」
「ああ・・・」
「時間は1045(ヒトマルヨンゴ)合わせろよ?」
「おめえこそ遅れんなよ」

こつん、と二人が拳を合わせる。
痩せ男が不思議な力でふわりと浮き上がるように飛ぶ。男は巨大なムササビのような獣に肩を掴まれて、民家がある方に飛んでいく。
大男の方は、その図体に比して身軽な様子で猫のように地面に飛び降りると、俊敏に闇の中を駆けていく。

大男はカダマシ。
痩せ男はクチナワ。

新月の夜、最終決戦はこうして静かに始まった。
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