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淫夢売ります
第55章 斜陽の楽園:壊れる世界
それはあのストーカー男だった。震える手で私の手を掴んでいるのは、夢の中で私を追いかけ回していたあの黒尽くめの男・・・。

「さらら!!」

別の声がする。今度は下だ。
下を見ると、30メートルはあろうかという程の地の底で、一人の男性が両手を広げて私の方を見上げていた。にこやかな、いつもの笑顔。

「彰吾っ!」

それはまさしく彰吾だった。温かな笑み、優しい顔つき。私のすべてを受け入れてくれる、まごうことなき私の恋人・・・。

「さらら!そいつの手を払え!飛び降りるんだ!」
「でも!」

高さはビルの8階くらいのそれだ。落ちたら命がない。

「僕を信じるんだ!大丈夫だ・・・右手に持っているアヴァロンのカード!それが君を守ってくれる。だから・・・だからこっちに来い!!さららっ!!」

ぎゅっと手を握られるのを感じて、私はまた上を見た。
そしてまた下を見る。

一体・・・一体何が起きてるの?
私は、どうしたらいいの?

「彰吾!彰吾!!何これ!?何がどうなってるの!!?」

下にいる彰吾は私の声が届かなかったのか、ひたすらに「飛び降りろ」「その男の手を払え」としか言わない。

私の問いに答えたのはストーカー男の方だった。

「さらら・・・。もし、もしも君が辛いことを全部忘れたいなら、そのまま飛び降りて・・・きっと、きっとそのカードが守ってくれる・・・ただ・・・ただ・・・辛くても、苦しくても・・・僕と、生きてくれるなら・・・」

ポツリと私の頬になにか水滴のようなものが落ちてきた。
それはストーカー男の流した涙だった。

その時、私の脳裏に記憶が奔流となって押し寄せてくる。

薄暗い店、昏い瞳の女店主、小さな机にかけられた黒いベルベットのようなクロス。
そこに広げられたカードの一枚が裏返される。

『あなたが現実を忘れるほどの夢に浸りたいなら・・・
 このカードはあなたの夢を叶えてくれるでしょう』

した覚えのない会話。
なのに、はっきりと記憶している光景。

真っ黒い目をした魔女が、にっこりと笑う。

『これが貴女の欲望です』

そうして差し出された一枚のカード。
それが・・・それこそが・・・

「アヴァロンのカード・・・」

耳鳴りが止む。全てが私の中でつながった。
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