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淫夢売ります
第53章 斜陽の楽園:幸せな日常
カッ、・・カッ、・・カッ、・・カッ、・・カッ

私のヒールの音だけが周囲に鳴り響く。街灯に照らされた影が後ろから前に移動していく。くっきりとアスファルトに刻まれる自分の影が、ぐいんと前に流れるように動いていった。

カッ、・・カッ、・・カッ、・・カッ、・・カッ

どうしても少し足早になる。特にこの日はいつも以上に周囲が静まり返っている気がして、なおさら背筋が寒く感じた。

カッ、・・カッ、・・カッ、・・カッ、・・カッ
 コッ、・・・コッ、・・・コッ、・・・コッ

あれ?と思う。
背中になにか、別の気配を感じたからだ。
先程まではいなかったはずのものだった。

咄嗟に足元を見て、ゾッとする。

自分の影の少し後ろに明らかに自分のものではない人影がもうひとつあるのだ。
この時、咄嗟に私の脳裏をよぎったのは先程の黒尽くめの男だった。あの男はスーパーでも私を見ていて、そして、今、後ろに・・・そんな妄想じみた考えが頭に浮かんでしまった。

いや・・・落ち着かなきゃ。ただの通行人かもしれないし・・・。
そう・・・きっとそう・・・。

そんなふうに言い聞かせようとするのだが、一旦思い浮かんでしまった恐怖はなかなか頭を離れてはくれなかった。それに、なんだろう・・・今実際にひたひたと背中に感じる気配がとても不気味なものに感じてしまうのだ。これは、もう理屈ではなく、直感と言ってもいいかもしれない。

カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ

ついに私は、駆け出す寸前くらいまで足を早めてしまっていた。しかし、そんな私にまるで追いすがろうとするかのように、背後の気配もまた、足を早めていた。

 コッ、コッ、コッ、コッ、コッ、コッ

なに・・・何なの!?

心臓がドキドキと強く打っている。背中に冷たいものが流れる。恐怖のせいか、唇までカサカサに乾いている感じだ。

更に私は足を早める。目の前の角、あそこを曲がればすぐにマンションのエントランスだ。そこまで行けば人目があることも期待できる。

カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ
 コッ、コッ、コッ、コッ、コッ、コッ

最後の方はほぼ全力疾走に近かった。息を切らせて角を曲がる。そこは先程よりも少し明るい道であり、偶然にも同じマンションの住人と思しき女性がエントランスに入っていくところだった。
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