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淫夢売ります
第32章 仮面の夜会:オートマータ
店内は狭く、特に椅子などがあるわけではないので、ぶらぶらとそこらを見るだけだ。ディスプレイされているのは、どうやら占い関連の道具のようだ。値札がついているところを見ると、これも売り物らしい。書籍はもちろん、小さい水晶の玉、タロットカードなんかもあった。あとは、木の板や石によくわからない文字が彫られているものとかが並んでいた。亜希子はイラストを描いているだけのことはあり、カラー図版がたくさん描かれている占いの本を手に取ってパラパラとめくっていた。

10分ほどで優里が出てきた。『2万5千円だったよ』と亜希子に目配せをしながらこそっと言った。亜希子も入り、やはり10分ほどで出てくる。いよいよ私の番だ。

カーテンをくぐると、先ほどと同じところにユメノが座っていた。黒いクロスのかかった小さな机の上に、一組の細長いカードの束が置いてある。先程はなかったものだ。

「お客様も夢のご購入でよろしいですか?」
問われて、一瞬躊躇する。ポルノのような夢、という言葉が頭に蘇る。

おそらく私は同年代の人よりも性体験は著しく少ない方だと思う。家庭が厳しかったのもあるけれども、性格的に男性とのお付き合いを積極的にする方でもなかった。彼氏がいたこともなく、今の夫とは、両親があつらえたお見合いで結婚した。性体験は今の夫とだけしか経験がない。

アダルトビデオやポルノなどの存在は知っているが、これまでそういったものに触れる機会もなかった。

「いかがいたしますか?」
ユメノがじっと私の目を見つめてくる。光の加減なのか、その目はどこまでも深い夜の闇のように見えた。

さっきの・・・目だ。

その目の中の暗闇を見ていると、だんだんと妙な気持ちになってくる。胸の中がざわめくというか、普段あまり感じたことがないゾクリとした不思議な感覚を覚えた。

そして、まるで魔法にかかったように、私はこくりと頷いていた。

ユメノが売っている夢の説明をする。彼女が言うには、夢はいわゆる『淫夢』であること。内容は選ぶことはできないこと。そして、万が一夢が気に入らなくても返金はできないこと、などだった。
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