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千一夜
第57章 第八夜 island 王道
「あの、NSRって何ですか?」
「Non Stop Runの頭文字をとってNSR。毎年東大の五月祭で行われる自転車部R班の伝統行事です。仙台や新潟、そして富山のある地点から東大のキャンパスまで二十四時間不眠で走り続けます。距離にすると三百㌔から四百㌔くらいかな」
「そんなに長い距離を二十四時間眠らずに自転車で走る?」
「そうです」
「完走できるんですか?」
「かならずやり遂げます。まぁ、走り終わって少し時間が経つと、一気に眠りの世界に放り投げられますが」
「……」
 私の中の東大生のイメージがみしみしと音を立てながら壊れていく。東大生って勉強以外は何もしない学生なのだと勝手に思っていた(東大の学生諸君、申し訳ない)。こうして河田に説明されても東大とスポーツがどうしても結びつかない。
「工藤さん、ひょっとしたら東大生ってスポーツなんかしないと思ってません?」
「思ってました」
 私は正直にそう答えた。
「心外です。悔しくてたまりません」
 河田はフロントガラス越しに見える道路を睨んでそう言った。
「ごめんなさい」
「ははは、冗談ですよ。もう慣れっこです」
「慣れっこ?」
「東大生は運動をしない。東大生にとって運動は勉強の敵だ。そう思っている人は工藤さんだけじゃないですよ。でも違いますからね、東大生はスポーツ大好きです。ははは」
 車内に河田の豪快な笑い声が広がった。
「……」
「東京大学の学生は勉強もする。そしてスポーツもする。文武両道なんですよ」
「……」
 ちょっとむかついた。
「そうだ、僕のNSRの話なんですが」
「河田さんもされたんですか? NSRを?」
「もちろん。ただ五月祭のNSRは三年生まで、四年生は一人NSRをしました」
「一人で?」
「そうですよ」
「ちなみにどこから東大のキャンパスに向かったんですか?」
「そうですよね、仙台辺りからキャンパスに向かうと言う手もあったんですが、それでは少し寂しい」
「寂しいって、どうしてですか?」
「僕のNSRを迎えてくれる応援団が一人もいません。走り切ったあの瞬間、僕は応援歌を聴きたいんですよ」
「校歌じゃなくて応援歌ですか?」
「東京大学には校歌はないんです」
「えっ!校歌がない!本当ですか?」
「本当です」
「……」
「一人NSRの話に戻ります」
「ええ」
「僕のNSRは国道49号線との戦いでした」
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