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千一夜
第56章 第八夜 island 二本の電話
 私は混乱した。もちろんこんなときは冷静にならなければならない。
 河田は一方的に話しを進めた。それに対して私は頷いていただけのような気がする。自分に今起こっていることを落ち着いて分析する。
 次の日曜日、時間は朝の八時、場所はこの店の前。注意事項として河田は何も持ってくるなと言った。ただ服は着てて欲しいみたいな冗談も言っていた(笑えなかったけど)。行き先は秘密。
 河田は私をどこかに連れて行くと言っている……?
「えっ!」
 誰もいない店内で私の声が響いた。もし誰かがいたらその人はきっとびっくりして腰を抜かしたかもしれない。
 誰かからデートに誘われて不愉快になる女子はこの世にはいない(ストーカーは除く)。だから私だって小躍りするくらいうれしいはずなのに、どういうわけか今一つ喜ぶことが出来ない。
 河田は人を騙すような人間ではない(八海山の話なんて可愛い嘘だ)。
 河田は間違いなく日曜の朝八時に私を迎えにここにやってくる……。ひょっとしたらデートの誘いではない可能性もあるのではないか。
 例えば河田が何かの買い物をする。その買い物にただ単に付き合えと言ってるだけなのかもしれない。
 河田は私に褒美をくれと言った。私を自分の買い物に付き合わせることが褒美なのだろうか……。
 買い物に付き合わされるのは正直っていい気分ではない。加藤によると河田はストックオプションで十億近いお金を手にしたそうだ。スーパーを何軒か回り、少しでも安い品物を手に入れようとする庶民とは住んでいる世界が違う。そのことが頭を過った瞬間、私は憂鬱になった。断ればよかった……。
 しかし、先ほどの電話が本当にデートの誘いだとしたら……。
 高校一年のとき、私は初めてデートをした。二歳年上の先輩に告られて、最初のデートは映画と買い物、そしてカフェでお茶を飲んだ(女は初めてを忘れない)。
 先輩はとてもストレートにものを言う人だった。
「付き合って欲しい」「映画を見に行かないか」
 奇をてらう言葉なんて使わずに、自分の気持ちをそのまま私に伝える人だった。私はそう言う男に惹かれる。
 期待はしない方がいい。私は幸運から見放されている。
 断ろう。日曜日はいつものように部屋の掃除と洗濯、そして買い物に出かけることにする。
 そう自分に言い聞かせたのだが……。
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