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千一夜
第56章 第八夜 island 二本の電話
「名刺の話というより、河田さんのショーと言った方がいいわ」
「ショー?」
「そう、河田劇場の始まり」
「……」
 河田劇場って……。
「引き抜かれた河田さんにも面接みたいなものがあったのよ」
「面接……」
「実はそのときの話を創業者であり現代表取締役社長が経済紙のインタビューで語っているの。それが掲載されているものを持っているんだけど、ちょっと読んでみるわね。監査役を入れて六人の経営陣が会社の応接室で河田さんを待っていた。左手にパンパンに膨らんだ鞄を提げた河田さんが部屋に入って来た。鞄に入りきらなかった書類を左腕の脇にも挟んでいたそうよ。そして名刺交換の話になるんだけど、テーブルの上に置いた六枚の名刺を見て河田さんは社長にこう訊いたの。『CEOとはどういう意味ですか』すると『チーフエグゼクティブオフィサーということだが』と社長が答えた。『私は略称など訊いていない。CEOの意味をお訊ねしている』と河田さんが続けるの。社長は河田さんの物言いに腹を立ててこう返した。『あなた知らないの? 最高経営責任者ということだよ』このとき、社長以外の五人が憚ることなく笑い声をあげたのね。でも河田さんはにんまり笑ってこう言ったの『CEOと社長の違いがわかるか?』『……』社長は即答できなかった。河田さんを嘲笑した五人の体が固まったそうよ。『アメリカの法律で定められた法人内での肩書を流行りとばかりに名刺に使うことがそもそも愚かなことだ。どうしても使いたいのならこの会社が世界に出て行くときだ。会社の経営に一番必要のないものは見栄ですよ。改めなさい』もうそのときは会社側六人が河田さんの顔を見ることができなかった、と現代表取締役社長が言っているわ」
「六人は河田さんより年上ですよね?」
「若い会社だったけど、おそらく六人全員が河田さんよりも年上よ。監査役は、あっ、この人、後で河田さんにコテンパンにやられて監査役を解任されるんだけど、年齢は六人の中で一番上。メインバンクから出向で来ている五十代のおっさん。つまり応接室の中では河田さんが一番若いと言うこと」
「……」
 加藤が話す河田は、店で高所恐怖症だと言った河田とは全然違う。
「名刺の話で立場は逆転したのよ。河田さんは会社の現状から目を逸らしていた経営陣に現実を見せたかったんじゃないかしら。今度は河田さんが六人を攻撃する番」
「攻撃……」
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