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千一夜
第56章 第八夜 island 二本の電話
「二十代で役職がMDの河田さんに出来立てほやほやの会社からお呼びがかかったわけ。それが工藤さんと聖子ママが貰った名刺の会社よ。でもちょっとごたごたがあったみたいよ」
「優秀な河田さんを銀行が引き留めた……ということでしょうか?」
それ以外私にはごたごたの理由が思いつかない。
「逆よ」
「逆? ……」
逆とはどういうことなのか。
「河田さんに呼びかけた会社は、マザーズに上場して三年目の会社だったの。ところがその頃、その会社の業績が悪化したのよ」
「悪化?」
「そう、悪化。倒産一歩手前」
「倒産!」
倒産=会社がなくなるということ?
「決算発表で激震が走ったわ」
「激震……」
激震の中身は?
「債務超過」
「債務超過……?」
「つまり会社の負債総額が資産総額を上回り、純資産がマイナスになったわけ。会社の株価は連日のストップ安。資産がマイナスの会社に誰がお金を貸す? そんな会社にお金を貸す奇特な銀行なんてないわよ」
「どうして河田さんはその危ない会社に行ったんですか?」
「そこなのよ。これ噂なんだけど、裏で動いてたのは河田さんが勤めいてた銀行だという話があるの」
「優秀な河田さんを手放すだけじゃなくて、潰れそうな会社に送った?」
「送った……というより追い出したと言った方がいいかもしれないわ」
「追い出す!どうして河田さんが追い出されなければならないんですか?」
「一言で言えば嫉妬」
「嫉妬?」
「二十代半ばでMDよ。その上はディレクター。ディレクターなんて二十年経ってもなれない人が多いのに、河田さんは一人出世街道をまっしぐら。そんな河田さんを恨んでいる人なんて一人二人じゃないでしょ」
「……」
どういう世界にも苛めみたいなものがあるのか。
「だったら転職なんてしなければいいんじゃないですか?」
「ダメダメ、そう言う噂が流れた時点で河田さんに残された道は二つ。話を受けるか、それともその話を断って銀行も辞めるか」
「そんな、酷いわ」
「だから追い出されたと言われてるのよ」
「……」
“派遣さん”と呼ばれて働いていた方が楽だ。私には権力争いがわからない。そうまでしてエリートたちは頂上に向かおうとするものなのか。
「工藤さん、一つ面白い話があるのよ」
「面白い話?」
「名刺の話」
「名刺……」
「あのね」
加藤が話を続ける。
「……」
「優秀な河田さんを銀行が引き留めた……ということでしょうか?」
それ以外私にはごたごたの理由が思いつかない。
「逆よ」
「逆? ……」
逆とはどういうことなのか。
「河田さんに呼びかけた会社は、マザーズに上場して三年目の会社だったの。ところがその頃、その会社の業績が悪化したのよ」
「悪化?」
「そう、悪化。倒産一歩手前」
「倒産!」
倒産=会社がなくなるということ?
「決算発表で激震が走ったわ」
「激震……」
激震の中身は?
「債務超過」
「債務超過……?」
「つまり会社の負債総額が資産総額を上回り、純資産がマイナスになったわけ。会社の株価は連日のストップ安。資産がマイナスの会社に誰がお金を貸す? そんな会社にお金を貸す奇特な銀行なんてないわよ」
「どうして河田さんはその危ない会社に行ったんですか?」
「そこなのよ。これ噂なんだけど、裏で動いてたのは河田さんが勤めいてた銀行だという話があるの」
「優秀な河田さんを手放すだけじゃなくて、潰れそうな会社に送った?」
「送った……というより追い出したと言った方がいいかもしれないわ」
「追い出す!どうして河田さんが追い出されなければならないんですか?」
「一言で言えば嫉妬」
「嫉妬?」
「二十代半ばでMDよ。その上はディレクター。ディレクターなんて二十年経ってもなれない人が多いのに、河田さんは一人出世街道をまっしぐら。そんな河田さんを恨んでいる人なんて一人二人じゃないでしょ」
「……」
どういう世界にも苛めみたいなものがあるのか。
「だったら転職なんてしなければいいんじゃないですか?」
「ダメダメ、そう言う噂が流れた時点で河田さんに残された道は二つ。話を受けるか、それともその話を断って銀行も辞めるか」
「そんな、酷いわ」
「だから追い出されたと言われてるのよ」
「……」
“派遣さん”と呼ばれて働いていた方が楽だ。私には権力争いがわからない。そうまでしてエリートたちは頂上に向かおうとするものなのか。
「工藤さん、一つ面白い話があるのよ」
「面白い話?」
「名刺の話」
「名刺……」
「あのね」
加藤が話を続ける。
「……」

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