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千一夜
第56章 第八夜 island 二本の電話
「……」 
 私は加藤の言葉を待った。
「あの人本物よ」
「本物? あの人って……」
「あの人はあの人、河田良和」
「河田さん……が本物って……どういうことですか?」
「本物のスーパーエリートだっていうこと」
「スーパーエリート?」
「河田さんの経歴から簡単に言うわね」
「ちょっと待ってください。どうして加藤さんが河田さんのことを調べたりしたんですか?」
「聖子ママに頼まれたのよ」
「オーナーに?」
「そう。『悪い男には思えないけど少し調べてくれない』って頼まれたの」
「……」
 どうして? と言いたかったが私はその言葉を飲み込んだ。
「言うわよ。河田良和三十一歳。ちなみに独身。恋人の有無は不明。出身は東京の千代田区。高校は都立H高校。Wikipediaによると高校時代は確かに写真部に所属していたみたい。後で私にも八海山の写真見せて。スーパーエリートが高校時代に撮った写真はどんなものなのか興味があるわ。そして大学は……はぁ」
 加藤がため息を漏らした。
「……」
「大学はあの大学よ」
「あの大学?」
「東京大学法学部」
「東大!」
 加藤のため息の理由がわかった。
「これもWikipediaからなんだけど、大学時代は自転車部R班というところにいたみたい」
「自転車部R班?」
「旅行好きなのかもね。旅行好きな河田さん、留年することなく東大を卒業。で、河田さん、国家公務員試験総合職を受験するわけ。見事合格。ところが河田さん、キャリアなんかに目もくれずにアメリカの投資銀行に入社したのよ」
「アメリカの投資銀行?」
「どうかした?」
「いただいた名刺が銀行の名刺じゃなかったんですが」
「そう、それでいいの。だって河田さん、転職したんですから。違う違う転職じゃなくてヘッドハンティングと言うべきね」
「ヘッドハンティング?」
「そう、ヘッドハンティング。元に戻るわよ。河田さん、投資銀行入社と同時にアメリカのコーネル大学に留学するのよ。そこで一年間フルタイムで学んでMBAを取得。その後日本に帰国。そして三年後、河田さんの役職はマネージングディレクター。ねぇ、工藤さん、凄いでしょ?」
「はぁ」
 私が理解できたのは東大まで。留学だとかMBAだとか私には何が凄いのかよくわからない。加藤が言ったマネージングディレクターに至ってはちんぷんかんぷんだ。
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