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千一夜
第55章 第八夜 island
オーナーが店に出るときは、常連客達の予約が入ったときくらいだ。そんなときオーナーだけでなく私や加藤もカウンターの中に入る。
“客のプライバシーに立ち入るな”これは加藤のアドバイスであり、加藤のアドバイスはオーナーのアドバイスでもある。
客商売にはマニュアルに書かれていないルールがある。決まりを破れば客は店に足を向けなくなるかもしれない。
ところがオーナーはそのルールを無視した。無視し続けたと言った方がいいだろう。
河田に対して、畳みかけるようにオーナーは質問した。こんなオーナーを私は知らない。だが、河田は腹を立てることなくオーナーに一つ一つ丁寧に答えた。
空気が変わったのは、八海山の写真についてオーナーが河田に訊ねたときだった。
「河田さん、あなたは私やひかりちゃんに嘘をついたのね」
「すみません。八海山を登ったと言うのは嘘です。言い訳させてもらえますか?」
「どうぞ」
「ザックを背負って首にカメラを提げて登山道の入り口に入ろうとしたとき、別の登山者から声を掛けられたんです。その人は四十代くらいの男でした。彼は僕にこう言ったんです。『君、一人? まさかその格好で登ろうとしていないよね?』僕は言いました『登ります』と。男はまた僕にこう言ったんです『君、山の経験ないよね? この山は初心者一人じゃ無理だよ。岩場はあるし、だから滑落の危険だってある。悪いことは言わない、今日はやめときなさい。登る登らないは君の自由だ。でも僕の忠告を無視して君が登り始めたら、僕は警察に連絡する。命知らずの若者が、スニーカーで八海山を登り始めたとね。ロープウェイがあるから、今日はそれでロープウェイ山頂まで行きなさい』」
「それであなたはロープウェイで山頂まで行った?」
「そうです」
「ふふふ」
オーナーが大笑いした。
「勉強になりました。何事もリサーチが大事だと言うことを学びましたし。僕には登山が無理だと言うこともわかりました」
「登山が無理? どうして?」
オーナーのその疑問は私の疑問でもある。
「僕、気付いたんです」
「何を?」
「高いところが苦手だと言うことを」
「つまり、あなたは高所恐怖症?」
「はい」
「ふふふ」
「ふふふ」
オーナーだけでなく私も笑った。
焼酎を飲み、そして深川めしを食べて河田は「また来ます」と言って帰った。
また来る……私は嬉しかった。
“客のプライバシーに立ち入るな”これは加藤のアドバイスであり、加藤のアドバイスはオーナーのアドバイスでもある。
客商売にはマニュアルに書かれていないルールがある。決まりを破れば客は店に足を向けなくなるかもしれない。
ところがオーナーはそのルールを無視した。無視し続けたと言った方がいいだろう。
河田に対して、畳みかけるようにオーナーは質問した。こんなオーナーを私は知らない。だが、河田は腹を立てることなくオーナーに一つ一つ丁寧に答えた。
空気が変わったのは、八海山の写真についてオーナーが河田に訊ねたときだった。
「河田さん、あなたは私やひかりちゃんに嘘をついたのね」
「すみません。八海山を登ったと言うのは嘘です。言い訳させてもらえますか?」
「どうぞ」
「ザックを背負って首にカメラを提げて登山道の入り口に入ろうとしたとき、別の登山者から声を掛けられたんです。その人は四十代くらいの男でした。彼は僕にこう言ったんです。『君、一人? まさかその格好で登ろうとしていないよね?』僕は言いました『登ります』と。男はまた僕にこう言ったんです『君、山の経験ないよね? この山は初心者一人じゃ無理だよ。岩場はあるし、だから滑落の危険だってある。悪いことは言わない、今日はやめときなさい。登る登らないは君の自由だ。でも僕の忠告を無視して君が登り始めたら、僕は警察に連絡する。命知らずの若者が、スニーカーで八海山を登り始めたとね。ロープウェイがあるから、今日はそれでロープウェイ山頂まで行きなさい』」
「それであなたはロープウェイで山頂まで行った?」
「そうです」
「ふふふ」
オーナーが大笑いした。
「勉強になりました。何事もリサーチが大事だと言うことを学びましたし。僕には登山が無理だと言うこともわかりました」
「登山が無理? どうして?」
オーナーのその疑問は私の疑問でもある。
「僕、気付いたんです」
「何を?」
「高いところが苦手だと言うことを」
「つまり、あなたは高所恐怖症?」
「はい」
「ふふふ」
「ふふふ」
オーナーだけでなく私も笑った。
焼酎を飲み、そして深川めしを食べて河田は「また来ます」と言って帰った。
また来る……私は嬉しかった。

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