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千一夜
第55章 第八夜 island
「ははは。もちろん」
 河田は笑ってそう答えた。
「ふふふ」
 オーナーも笑った。
「ただ条件があります」
「条件?」
「はい、条件です」
「条件は何?」
「一つ、アポを取っていただきたいということです」
「もう一つは?」
「僕は専務取締役の部屋で仕事をしています。ですので、どなたかとお会いするときは必ず仕事のことで僕の部屋に入っていただきます」
「仕事以外では会わないと言うことね?」
「その通りです」
「何だか面倒ね。アポだってこの名刺に書いてある電話番号にかければいいんじゃないの?」
「その電話の番号にかけると、僕の秘書が出ます」
「秘書?」
「はい、秘書です」
「どうしてあなたの代わりに秘書が電話に出るの?」
 オーナーは質問を続ける。
「一言で言うといたずら電話の防止です。仕事に関係のないことで電話してくる人間もいますから。意味のない電話を受けている時間は僕にはありません」
「あなたの秘書さんは大変ね、フィルターの役割も果たさないといけないんだから」
「感謝してます」
「プライベートの電話番号を教えていただける?」
「はい」
 河田はそう返事をした後、オーナーと私に渡した名刺の裏にプライベートの電話番号を万年筆で書いた。
「綺麗な万年筆ね、それモンブラン?」
「いいえ。プラチナです」
「買ったの?」
「秘書からのプレゼントです。先月僕の誕生日だったんで」
「あなたの秘書のセンスは最高ね。お返しはしたでしょうね?」
「もちろん」
「でもこの名刺、好感が持てるわ」
 オーナーは河田から名刺を受け取ってそう言った。
「好感……ですか?」
「このお店に来るお客さんの中にもたまにいるの。肩書がCEOだとかCOOだとか。CEOって何よ? だから私はそのお客さんにこう訊ねるの『社員は何人いらっしゃるの?』と。するとそのお客さんは少し考えてこう答えるのよ『三十人くらいですかね』。こういう会社は長く続かないわ。河田さん、わかる?」
「何となく」
「何となくなんて答えじゃ専務取締役は失格よ。はっきり答えなさい」
「三十人くらい、ここですね。少人数の会社なのに自分の会社にいる人間の数を正確に理解していない。それでは最高経営責任者とは言えない。違いますか?」
「ふふふ、合格」
「ちなみに僕の会社の従業員数は子会社などを含めておおよそ千人です。僕はまた失格ですか?」
「大丈夫よ」
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