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千一夜
第55章 第八夜 island
次の週の水曜日、男は店にやってきた。
火曜の夜に男から「明日行く」と電話があったのだ。
深川めしの仕込みを担当しているオーナーにそれを伝えると、自分も明日店に出ると言った。
約束の時間は、開店前の十七時三十分。時間通りに男は店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
いつもより大きい私の声。
「こんにちは」
そう挨拶した男は、スーツを着てネクタイを締めいていた。そして右手にトートバックを提げていた。スーツもネクタイも、そしてバッグもおそらく高価なものなのだろう。
「どうぞこちらへ」
私は男にそう言った。
「深川めしをまたいただきにまいりました。ひょっとしてこちらがオーナーさんでしょうか?」
男の目は私の隣のオーナーに向かった。
「いらっしゃいませ。オーナーの五十嵐と申します。お客さんは私を聖子ママと呼んでくれます。どうぞよろしく」
五十嵐聖子、オーナーだけは本名で店に出る。
「河田良和です」
男は私とオーナーに向かってそう言った。
「河田さん……」
心の中で私は男の名前を言った。
「この前こちらに伺ったときは名刺を切らしちゃってすみませんでした。社会人失格ですよね。河田です。よろしくお願いします」
男はトートバックを椅子に置いた後、スーツの内ポケットに手をいれて名刺入れを取り出した。それからオーナーと私に両手で名刺を渡した。
「頂戴します」
オーナーがそう言った。私もオーナーに倣った。
「失礼します」
男はそう言って席に座った。
「専務取締役!」
男の肩書に驚いた私は、思わず大きな声を出してしまった。
「河田さんはおいくつなの?」
オーナーが河田にそう訊ねた。
「三十一です」
「お若いのにもう専務さん?」
オーナーが河田の顔を見てそう言った。
「恥ずかしです」
「恥ずかしいことなんかないでしょ。立派よ。その若さで専務さんなんだから。偉いわ」
「偉くはないですね」
「それ謙遜? 謙遜も度が過ぎると嫌味になるわよ」
私はオーナーの言葉に冷やりとした。もしかしたら河田が気を悪くするかもしれない。
「偉くないと言うのは事実です。僕は専務取締役という立場で仕事をしているだけです」
「たとえば、私が河田さんのこの名刺を持って明日あなたの会社に行ったら会っていただけるの?」
どういうわけかオーナーは河田に絡む。私は心配になった。
火曜の夜に男から「明日行く」と電話があったのだ。
深川めしの仕込みを担当しているオーナーにそれを伝えると、自分も明日店に出ると言った。
約束の時間は、開店前の十七時三十分。時間通りに男は店のドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
いつもより大きい私の声。
「こんにちは」
そう挨拶した男は、スーツを着てネクタイを締めいていた。そして右手にトートバックを提げていた。スーツもネクタイも、そしてバッグもおそらく高価なものなのだろう。
「どうぞこちらへ」
私は男にそう言った。
「深川めしをまたいただきにまいりました。ひょっとしてこちらがオーナーさんでしょうか?」
男の目は私の隣のオーナーに向かった。
「いらっしゃいませ。オーナーの五十嵐と申します。お客さんは私を聖子ママと呼んでくれます。どうぞよろしく」
五十嵐聖子、オーナーだけは本名で店に出る。
「河田良和です」
男は私とオーナーに向かってそう言った。
「河田さん……」
心の中で私は男の名前を言った。
「この前こちらに伺ったときは名刺を切らしちゃってすみませんでした。社会人失格ですよね。河田です。よろしくお願いします」
男はトートバックを椅子に置いた後、スーツの内ポケットに手をいれて名刺入れを取り出した。それからオーナーと私に両手で名刺を渡した。
「頂戴します」
オーナーがそう言った。私もオーナーに倣った。
「失礼します」
男はそう言って席に座った。
「専務取締役!」
男の肩書に驚いた私は、思わず大きな声を出してしまった。
「河田さんはおいくつなの?」
オーナーが河田にそう訊ねた。
「三十一です」
「お若いのにもう専務さん?」
オーナーが河田の顔を見てそう言った。
「恥ずかしです」
「恥ずかしいことなんかないでしょ。立派よ。その若さで専務さんなんだから。偉いわ」
「偉くはないですね」
「それ謙遜? 謙遜も度が過ぎると嫌味になるわよ」
私はオーナーの言葉に冷やりとした。もしかしたら河田が気を悪くするかもしれない。
「偉くないと言うのは事実です。僕は専務取締役という立場で仕事をしているだけです」
「たとえば、私が河田さんのこの名刺を持って明日あなたの会社に行ったら会っていただけるの?」
どういうわけかオーナーは河田に絡む。私は心配になった。

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