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千一夜
第55章 第八夜 island
 勝ち組とか負け組という言葉はまだ使われているのだろうか?
 仮にまだその言葉が死語になっていないのであれば、私は間違いなく勝ち組だ。横浜の海を見渡すことが出来るタワーマンション。私はそのマンションの最上階にある3LDKの部屋に住んでいる。
 高級スーパーもコンビニも、そして有名なコーヒーチェーン店やレストランもタワマンの中にある。雨が降ろうが雪が降ろうが傘など必要ない。生活はすべてタワマンの中で完結する。
 最近気づいたことがある。私はスーパーで買い物をするとき、商品の値段を見ない。欲しいものを買い物かごに入れる。ただそれだけ。例えば家に帰り、買い物のレシートを見たとき、そこにキャベツひとたまの値段が一万円と記されていても私は驚かない。私にとってレシートに記された数字なんてどうでもいい。ひとたま一万円のキャベツをいつもと変わらずに調理するだけだ。
 そしてもう一つ。買い物する度に付きまとってくる迷惑なポイント。そんなポイント、私は欲しい人にあげたい。勝ち組にポイントなんて必要ない。だから私はすべてのポイントを寄付することにしている。
 寄付をしているという優越感に浸りたいわけではない。私にとってポイントは、うざくて面倒で必要ないものなのだ。だからそういうものは直ぐ手放す、というか本当にいらない。
 だから私はポイントを付与する全会社に言いたい。私はポイントなんていりませんと。
 部屋から一歩も出たくないときなんて、抹茶クリームフラペチーノ一杯ですら私はデリバリーを利用する。そしてこう思うのだ。デリバリーサービスってもしかしたら私のためにあるんじゃないかと。
 週に何度か同じマンションの別の階に住む夫の両親が私の子供たちの世話をしてくれる。そのとき私は、横浜の海を見るためだけに買ったカッシーナの一人掛けのソファに座り、五十九階の部屋から海を眺める。最上階の部屋の窓に優しい陽の光が射しこむ日にはそのまま寝てしまうこともあるが、そんな私を責める人間はどこにもいない。
 勝ち組、セレブ(この言葉もまだ使われているのかわからないが)、成功者(成功したのは私ではないが)、今私はお金から支配されるのではなく、お金を支配する側になった。
 幸せか? と訊ねられたら、私はこう答える。
「その質問に何の意味があるんですか? 私を見てわかりませんか?」と。
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