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千一夜
第50章 第七夜 秘密の場所
「奥さん、ここがポイントや、力いっぱい引いても天河神社の鈴は鳴りまへん。鈴緒はグルグル回さなぁあきまへんで。そやないと天河大弁財天社の五十鈴は鳴らんのや」
私と咲子は宿をチェックアウトして、迎えにきた樋口の車に乗っている。大阪に戻る前に私たちには行きたいところがあった。行き先は天河大弁財天社。
「回す?」
「そう、回さな鳴りまへん。せっかっくご主人と奥さんは天河の神様に呼ばれたんや。鈴が鳴らんかったら神様怒らはるで。そやさかい奥さんは腰をどっしり落として鈴緒を命懸けで回すんや」
「ははは」
思わず笑い声が漏れた。咲子が天河第弁財天社の五十鈴を鳴らす様子が脳裏に浮かんだのだ。
「樋口さん、私の主人てこう言う人なのよ」
「ご主人、笑ったらあかんがな。ご主人も黙って見てるだけじゃあきまへんで。奥さんと協力して二人で鳴らしなはれ。ウエディングケーキにナイフを入れるのだけが、結婚した夫婦の最初の共同作業じゃあらしまへん。そや、ご主人は市長選挙があるさかい。ご主人も鈴を鳴らして当選を祈願しなはれ」
「樋口さん、それがね、どうやら主人の他に立候補者がいないみたいなの。このままだと無投票当選よ」
「そらぁよかったやないですか。無投票でも当選は当選や。目出度いこっちゃ。そやったらご主人は神様にお礼言わなぁあかんな。お礼してからご主人と奥さんの街のさらなる発展を祈願したらええ。みんなが幸せになるように鈴を鳴らしなはれ」
「樋口さん、ええこと言うわ」
咲子が関西弁を使っておどけた。
「奥さん、関西弁の才能バッチグーや、もう奥さんは関西の人間やな。ははは」
旅に出る目的は人さまざまだ。非日常を味わいたい。温泉につかり美味しい郷土料理を楽しみたい。誰かがSNSにあげたあの風景を直に見たい。
だが、人が旅するのはそれだけが目的ではないはずだ。いや、もしかしたら旅をすると言うことに目的などないかもしれない。
何も考えずに、ときには心を無にして旅に出かけることもあるだろう。
この旅では、私と咲子との間に小さな溝が出来そうになった。しかし樋口の存在が、その溝を埋めた。もし樋口がいなかったら、なんて思うとぞっとする。
天河大弁財天社に車が着いた。
私と咲子が車から降りると、樋口がこう言った。
「ぎょうさん願い事言うても神様は聞きまへんで。人間欲張ったらあかん」
その通りだ。
私と咲子は宿をチェックアウトして、迎えにきた樋口の車に乗っている。大阪に戻る前に私たちには行きたいところがあった。行き先は天河大弁財天社。
「回す?」
「そう、回さな鳴りまへん。せっかっくご主人と奥さんは天河の神様に呼ばれたんや。鈴が鳴らんかったら神様怒らはるで。そやさかい奥さんは腰をどっしり落として鈴緒を命懸けで回すんや」
「ははは」
思わず笑い声が漏れた。咲子が天河第弁財天社の五十鈴を鳴らす様子が脳裏に浮かんだのだ。
「樋口さん、私の主人てこう言う人なのよ」
「ご主人、笑ったらあかんがな。ご主人も黙って見てるだけじゃあきまへんで。奥さんと協力して二人で鳴らしなはれ。ウエディングケーキにナイフを入れるのだけが、結婚した夫婦の最初の共同作業じゃあらしまへん。そや、ご主人は市長選挙があるさかい。ご主人も鈴を鳴らして当選を祈願しなはれ」
「樋口さん、それがね、どうやら主人の他に立候補者がいないみたいなの。このままだと無投票当選よ」
「そらぁよかったやないですか。無投票でも当選は当選や。目出度いこっちゃ。そやったらご主人は神様にお礼言わなぁあかんな。お礼してからご主人と奥さんの街のさらなる発展を祈願したらええ。みんなが幸せになるように鈴を鳴らしなはれ」
「樋口さん、ええこと言うわ」
咲子が関西弁を使っておどけた。
「奥さん、関西弁の才能バッチグーや、もう奥さんは関西の人間やな。ははは」
旅に出る目的は人さまざまだ。非日常を味わいたい。温泉につかり美味しい郷土料理を楽しみたい。誰かがSNSにあげたあの風景を直に見たい。
だが、人が旅するのはそれだけが目的ではないはずだ。いや、もしかしたら旅をすると言うことに目的などないかもしれない。
何も考えずに、ときには心を無にして旅に出かけることもあるだろう。
この旅では、私と咲子との間に小さな溝が出来そうになった。しかし樋口の存在が、その溝を埋めた。もし樋口がいなかったら、なんて思うとぞっとする。
天河大弁財天社に車が着いた。
私と咲子が車から降りると、樋口がこう言った。
「ぎょうさん願い事言うても神様は聞きまへんで。人間欲張ったらあかん」
その通りだ。

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