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千一夜
第46章 第七夜 訪問者 既視感
私と香坂が遠山の家に行くと、そこにはすでに沢田絵里がいた。
絵里は日本の大学を卒業した後、アメリカのペンシルベニア州にある大学でMBAを取得した。取得後、絵里はアメリカのコンサルタント会社に就職する。五年務めたその会社を退職すると、彼女はある州の女性知事のスピーチライターになった。その女性知事の退任と同時に絵里は日本に帰ってきた。
そんな彼女を咲子の父が見つけた? あるいは絵里の方から咲子の父に自分を売り込んだ? そのどちらなのかわからないが、絵里は私の選挙の参謀になった。
確か、スピーチライターは三時間の話を五分にまとめる力が必要だと聞いたことがる。無駄を省く、要点をわかりやすく、だが話すとき単調ではだめだ。表現に波を付け、話しているときの表情にも注意しろ。
絵里はレクチャーを終えると、食事はせずに帰って行った。
「どこで会ったんだ?」
「それが思い出せないのよ」
「きのせいじゃないか? 彼女が言ってただろ。大学を出てからはずっとアメリカで、帰国したのはつい最近だって」
「そうなのよね。だから私には沢田さんに会う機会なんてなかったわけだから……、でも気になるのよ、何かが引っかかるの、あの美人さん」
「あの美人さんか」
「長谷川、美人さんばかり見ていると、お嬢様がお怒りになるわよ」
「はぁ」
「何ため息なんかついてんのよ。それよりさ、あの美人さんには悪いんだけど、美人さんがいなくても市長選挙なんて長谷川の圧勝じゃない。ひょっとしたら無投票になるかもよ。今の市長が後継者に長谷川を指名した時点で勝負ありよ。市民だって今の市長の後ろには遠山がいるってことは知っているんだから。遠山に楯突いたらこの街では生きていけないわ」
「……」
香坂の言う通りだ。
「あっ、旦那が着たわ」
「……」
香坂の夫が店に入ってきた。
「ねぇ、一緒に乗って行かなくていいの? 送ってやるわよ」
「家が反対だ。君の旦那に迷惑はかけられない。今日はタクシーで帰るよ」
「あっ、そう」
高校時代から香坂と付き合っていた香坂の旦那は、親から継いだ田畑を守っている。だが、香坂の息子は東京の大学に行き、高校生の娘も農業を継ぐ気はないらしい。
二人が店を出て行った。私は電話でタクシーを呼んだ。香坂の言葉がどうしても気になる。香坂はどこで沢田絵里に会ったんだ?
絵里は日本の大学を卒業した後、アメリカのペンシルベニア州にある大学でMBAを取得した。取得後、絵里はアメリカのコンサルタント会社に就職する。五年務めたその会社を退職すると、彼女はある州の女性知事のスピーチライターになった。その女性知事の退任と同時に絵里は日本に帰ってきた。
そんな彼女を咲子の父が見つけた? あるいは絵里の方から咲子の父に自分を売り込んだ? そのどちらなのかわからないが、絵里は私の選挙の参謀になった。
確か、スピーチライターは三時間の話を五分にまとめる力が必要だと聞いたことがる。無駄を省く、要点をわかりやすく、だが話すとき単調ではだめだ。表現に波を付け、話しているときの表情にも注意しろ。
絵里はレクチャーを終えると、食事はせずに帰って行った。
「どこで会ったんだ?」
「それが思い出せないのよ」
「きのせいじゃないか? 彼女が言ってただろ。大学を出てからはずっとアメリカで、帰国したのはつい最近だって」
「そうなのよね。だから私には沢田さんに会う機会なんてなかったわけだから……、でも気になるのよ、何かが引っかかるの、あの美人さん」
「あの美人さんか」
「長谷川、美人さんばかり見ていると、お嬢様がお怒りになるわよ」
「はぁ」
「何ため息なんかついてんのよ。それよりさ、あの美人さんには悪いんだけど、美人さんがいなくても市長選挙なんて長谷川の圧勝じゃない。ひょっとしたら無投票になるかもよ。今の市長が後継者に長谷川を指名した時点で勝負ありよ。市民だって今の市長の後ろには遠山がいるってことは知っているんだから。遠山に楯突いたらこの街では生きていけないわ」
「……」
香坂の言う通りだ。
「あっ、旦那が着たわ」
「……」
香坂の夫が店に入ってきた。
「ねぇ、一緒に乗って行かなくていいの? 送ってやるわよ」
「家が反対だ。君の旦那に迷惑はかけられない。今日はタクシーで帰るよ」
「あっ、そう」
高校時代から香坂と付き合っていた香坂の旦那は、親から継いだ田畑を守っている。だが、香坂の息子は東京の大学に行き、高校生の娘も農業を継ぐ気はないらしい。
二人が店を出て行った。私は電話でタクシーを呼んだ。香坂の言葉がどうしても気になる。香坂はどこで沢田絵里に会ったんだ?

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