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千一夜
第46章 第七夜 訪問者 既視感
「あーお腹がペコペコ。長谷川、それ少し貰ってもいい?」
「全部食べていいよ」
夜の十時を過ぎると、開いている飲食店は国道沿いのラーメン店くらいになる。私は店員が運んできた野菜炒めを香坂の前にやった。
「サンキュー」
「遠山の家で食べただろ?」
「食べたわよ。さすが遠山様。懐石料理だったわね。ねぇ、遠山っていつもあんなの食べてんの?」
「知らないよ。お前太るぞ」
「もう体重を気にする歳じゃないわよ。あー来た来た」
香坂は頼んだチャーシュー麵のチャーシューを口に運んだ。私は香坂がチャーシュー麵と私の野菜炒めを平らげるのを待った。
食べ終えて、香坂は自分の夫に電話した。
「ねぇ知ってる? わが街の七十を超えるお年寄りたちの中には今でも遠山を遠山様って呼んでいる人がいるのよ」
「ああ」
「初めて会長と話したけど、なるほどって思ったわ。さすがよ、遠山機械工業会長遠山高獅は」
「……」
当たり前だ、と言おうとしたがやめた。遠山高獅の話を始めたらキリがない。
「それに咲子お嬢様、綺麗よね。長谷川になんかもったいないわ」
「長谷川なんかにってどういう意味だよ」
「そのまんまの意味よ。長谷川には悪いけど、私たちって昔で言えば平民でしょ。その平民が武家のお嬢様とご結婚だなんて」
「香坂、平民なんて言葉、役所では絶対に使うな」
「言うわけないじゃん。これで同期で独身なのは……誰がいたっけ?」
「田中と宮下だな」
「長谷川、おめでとう」
「何が?」
「目出たく独身連盟脱退じゃん」
「誰がいつ作ったんだよ、そんな連盟」
「私たちが入庁した頃って、早く結婚しろみたいない空気があったじゃん」
「ああ」
「公務員は信用されてなんぼだとか、そういう雰囲気」
「結婚と信用は比例しない」
「その見本が長谷川」
「見本にされても困る」
「ふん、でもそんな長谷川が結婚よ。ねぇ、披露宴呼んでくれるんでしょ?」
「結婚したらな」
「もう決まりじゃん。長谷川には悪いけど、だから遠山会長は娘婿の長谷川を市長にするんでしょ?」
「婿にはならんよ」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ遠山のお嬢様が長谷川家に嫁いでくるんだ」
「古臭い言い方だな」
「そう言えばさ、あの沢田って人も美人で可愛いわよね?」
「ああ」
「……」
「どうした?」
「どこかで会った気がするのよ」
「沢田さんに会った?」
「ええ」
「全部食べていいよ」
夜の十時を過ぎると、開いている飲食店は国道沿いのラーメン店くらいになる。私は店員が運んできた野菜炒めを香坂の前にやった。
「サンキュー」
「遠山の家で食べただろ?」
「食べたわよ。さすが遠山様。懐石料理だったわね。ねぇ、遠山っていつもあんなの食べてんの?」
「知らないよ。お前太るぞ」
「もう体重を気にする歳じゃないわよ。あー来た来た」
香坂は頼んだチャーシュー麵のチャーシューを口に運んだ。私は香坂がチャーシュー麵と私の野菜炒めを平らげるのを待った。
食べ終えて、香坂は自分の夫に電話した。
「ねぇ知ってる? わが街の七十を超えるお年寄りたちの中には今でも遠山を遠山様って呼んでいる人がいるのよ」
「ああ」
「初めて会長と話したけど、なるほどって思ったわ。さすがよ、遠山機械工業会長遠山高獅は」
「……」
当たり前だ、と言おうとしたがやめた。遠山高獅の話を始めたらキリがない。
「それに咲子お嬢様、綺麗よね。長谷川になんかもったいないわ」
「長谷川なんかにってどういう意味だよ」
「そのまんまの意味よ。長谷川には悪いけど、私たちって昔で言えば平民でしょ。その平民が武家のお嬢様とご結婚だなんて」
「香坂、平民なんて言葉、役所では絶対に使うな」
「言うわけないじゃん。これで同期で独身なのは……誰がいたっけ?」
「田中と宮下だな」
「長谷川、おめでとう」
「何が?」
「目出たく独身連盟脱退じゃん」
「誰がいつ作ったんだよ、そんな連盟」
「私たちが入庁した頃って、早く結婚しろみたいない空気があったじゃん」
「ああ」
「公務員は信用されてなんぼだとか、そういう雰囲気」
「結婚と信用は比例しない」
「その見本が長谷川」
「見本にされても困る」
「ふん、でもそんな長谷川が結婚よ。ねぇ、披露宴呼んでくれるんでしょ?」
「結婚したらな」
「もう決まりじゃん。長谷川には悪いけど、だから遠山会長は娘婿の長谷川を市長にするんでしょ?」
「婿にはならんよ」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ遠山のお嬢様が長谷川家に嫁いでくるんだ」
「古臭い言い方だな」
「そう言えばさ、あの沢田って人も美人で可愛いわよね?」
「ああ」
「……」
「どうした?」
「どこかで会った気がするのよ」
「沢田さんに会った?」
「ええ」

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