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千一夜
第46章 第七夜 訪問者 既視感
「香坂さん、今あなたの隣に座っている男が今度の市長選に出ます。そこであなたにお訊ねしたい。よろしいかな?」
 遠山家応接室、客用のソファに私と香坂が座っている。
「はい」
 声のトーンから香坂が緊張していることがわかった。街一番の権力者に話しかけられて緊張しない人間はこの街にはいない。
「香坂さん、この男をどう思う?」
「市長としての器のことでしょうか?」
「そうだ」
「申し分ないと思います」
「申し分ないか。はぁ、つまらん答えだな」
「お父さん、長谷川さんがいるのよ。長谷川さんに失礼じゃない」
 私の正面に高獅、斜め前に咲子が一人掛けのソファに座っている。咲子は遠山以外の人間がいるときは高獅をお父さん、あるいは父と呼ぶ。
「構わんよな?」
 咲子の父は私を見てそう言った。
「はい」
 権力者には逆らえない。それに私も香坂の本音が知りたい。
「優しくていい人だ。真面目で仕事のできる人間だ。私はそういうあいまいな答えを期待していない。だから香坂さん、この男がどう申し分ないのか具体的に話して欲しい」
 咲子の父の要望に対して香坂は、私が行った具体的な仕事を三つを挙げて高獅に話した。十分ほど話した後、香坂は最後にこう言った。
「長谷川の目はいつも市民に向かっています」
 と。
「……」
 咲子の父は腕を組んで顔を天井に向け、そして目を瞑った。
「香坂さん、もう一つだけ訊ねる。いいかな?」
「はい」
「この男の欠点は何だ?」
 咲子の父は目を瞑ったままそう訊ねた。
「欠点?」
「この男には何が足らないと思う?」
「……欲でしょうか」
「欲?」
「長谷川は欲のない馬鹿人間です」
 香坂は破れかぶれで(多分そうだと思う)そう答えた。
「ははは」
 香坂は街一番の権力者を腹の底から笑わせた。
「その通りだ。それにこんな欲のない馬鹿人間を好きになるやつもいるしな」
「お父さん、本当にもうやめて、恥ずかしいわ」
「そうだな。私は欲のない馬鹿人間を好きになった娘の父親だからな。ははは」
 おそらく香坂も生きた心地はしなったと思う。市長選がどうのこうのではなく、咲子の父は、今進行している市の動きを変えてしまう力を持ってるのだ。この男の前で躓いてしまうとすべてがご破算になる可能性がある。
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