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千一夜
第46章 第七夜 訪問者 既視感
 タクシーのフロントガラスに雨がぽつりぽつりと当たり始めた。ワイパーが一定の間隔で雨粒を拭き取る。雨の予報なんかあっただろうか? そんなことを思いながら、私は香坂と二人でタクシーの後部座席に座っている。
 遠山の屋敷に初めて入る香坂の胸の鼓動が聴こえてきそうだ。この街の人間で遠山を知らない者はいない。
 遠山のお屋敷は眺めるもので、決して入ることなどできないもの。目には見えないこの決まりも、この街の者は知っている。
「今日の夜、副市長と一緒に来い」
 咲子の父の命令に背くことはできない。このことを香坂に伝えるのは何となく気が引けたが、香坂は二つ返事で引き受けてくれた。
 日頃、遠山を敵対視する言葉を吐く香坂でも、遠山の屋敷には興味があるのだそうだ。遠山の家に上がることができる人間は限られている。確かにそのチャンスを逃す人間はこの街にはいない。
「選挙の打ち合わせよね」
「多分」
「そんなのやる必要なんてあるの? だって選挙は長谷川の圧勝じゃん。長谷川の出世を妬んでるやつらだって、長谷川の後ろに遠山がいるのを知っているんだから、長谷川の足を引っ張ったらこの街では生きていけないわ。ああ違う違う、この世の中で生きていけないわよ」
「足を引っ張る人間がいるのか?」
「同期にはいないわ。だって入庁したその日に同期のみんなが思ったのよ。この男には勝てないとね。でも私たちの上にはたっぷりいるわよ。ずっと待っていた統括のポジションを自分より年下の長谷川に取られたんですもの。ひょっとしたらそいつら丑の刻参りしているかもしれないわよ」
「藁人形にされるほど私という人間は嫌なやつか?」
「逆よ。いいやつすぎるのよ。いいやつって嫌われるの。覚えておきなさい」
「香坂はどうなんだ?」
「だから言ったじゃん。同期はみんな長谷川を見て出世を諦めたの」
「出世か」
 入庁式が頭に浮かんだ。同期八十五人。その中の誰かを押しのけて上に行こうと思ったことは一度もない。
「そんな長谷川も一度だけやばいときがあったわよね」
「ふん」
「やばい長谷川を助けたのは今の市長。長谷川を追い出そうとしたやつを知ってる?」
「もちろんだ」
「今何をしていると思う?」
「さぁ」
 誰かの役職に興味はない。
「給食センターの事務長にしがみついてそうよ。大左遷ね」
「……」
 憎たらしい顔を思い出した。
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