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第45章 第七夜　訪問者　戦い

　断っておかなければならないことがある。それは咲子の父が独裁者のように君臨しているかというこだ。答えはノー。
　いい経営者は人の話に必ず耳を傾ける。自分が率いる会社の進むべき道は間違っていないのか、悩んで悩んで悩みまくる。経営会議、取締役会、議論を戦わせ意見を聞く。だが会社のトップは二人ではない。最後の判断ができる人間はただ一人。もし間違えていたら潔く去る（昔で言うなら切腹？）。その覚悟がある人間がてっぺんにたどり着く（あるいはたどり着く資格を持つ）。
　そしてもう一人、咲子の兄遠山高彦。可もなく不可もない経営者が悪いと言っているのではない。たとえば高彦が遠山機械工業以外の会社の経営者であっても、彼はその会社を無難に操縦していくだろう。
　遠山高獅の息子には高獅の血が流れている。遠山家のその血は代々受け継がれてきたものだ。太陽の光に照らされる場所とそうでない場所。高彦はそれに目を背けるのではなく受け入れている。それは三代目の宿命だと。
　会長に上がって行ったコンビニの件（もちろんこれが取締役会の議題に上がることはない）は社長の高彦の耳にすぐに入った。
　高獅にコンビニを作るように言ったところで、高獅が容易に首を縦に振らないことくらい高彦はわかっていた。そこで高彦は一月掛けてコンビニの必要性を高獅に説いた。
　まず高彦はコンビニ大手三社の弁当を毎日持って会長室に向かった。カロリーや塩分、糖質、脂質などが明記されていて、コンビニの弁当が健康にも配慮されていると高獅を説得した。
　遠山のレストランの評価は確かに高い。ただ、そうではあっても社員はコンビニの弁当を食べたくなるときがある。そしてコンビニがあれば日用品などの買い物がすぐにできる。まさにコンビニエンスストア。便利な店が近くにあれば社員たちが時間を有効に使うことができる。
　高獅はいつも高彦の話を目を瞑り、腕組みをして聞いていた。
　一月後、「ふん」高獅はそう鼻を鳴らして会社敷地内にコンビニを作ることを認めた。
　敷地内にコンビニができて、地元テレビ局から取材の申し込みが遠山機械工業にあった。全国にどれだけのコンビニファンがいるのかわからないが、そういう人間からの問い合わせもあった・何でもその風景が珍しいのだそうだ。その風景とは……。
　遠山機械工業の敷地内で、コンビニ大手三社が仲良く横に並んいる。