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千一夜
第45章 第七夜 訪問者 戦い
 お咎めなし。更に咲子の父は四人にプレゼントを贈った。高野連公認のM社製の試合球十ダース。百二十球のボールには遠山高獅が書いた感謝状も添えられていた。
「ねぇ知ってる?」
「何のことだ?」
「遠山って、高校の生徒会みたいな真似もしてるのよ」
「高校の生徒会の真似? どういうことだ?」
 香坂は私よりも遠山機械工業には本当に詳しい。
「遠山は社員たちのクラブに総額一千万の予算を組んでいるの」
「一千万も?」
「そう、一千万円。その一千万をめぐってそれぞれの運動部と文化部がしのぎを削って予算の分捕り合いをするらしいのよ」
「そんなことしてたのか?」
 確かに大昔、生徒総会なんかでそういうことがあった。我が部はこういう活動して、これだけの成績を収めている。したがって我が部の予算はこれだけ頂きたい。
 それぞれの部の我儘を聞いていては予算など組めない。大抵は部員数や県大会などの成績からそれぞれのクラブに予算が充てられる。人気の部や全国大会に進むことができるような部は部員数も多くなる。部員の数は部の成績と比例する。
「それが面白いのよ。総務部が予算を組むらしいんだけど、その予算編成前に総務部が呼び出されるの」
「大変だな」
「ところが大変でも何でもないの」
「どうして?」
「絶対に負けられない戦いなんてタイトルをどこかからパクってきて、各部が総務部の担当者たちの前で演劇とカラオケとかやったりするらしいのよ」
「香坂はそれを見たことがあるのか?」
「見ることなんかできないわ。遠山の人間じゃないんだもん。遠山のやつらが楽しそうに話すの。むかつくんだけど、何だか羨ましくて」
「羨ましい?」
「だってそうじゃない、給料は高いわ、自由だわ、遠山機械工業ってまじで地上の楽園よ」
「地上の楽園ね」
「それだけじゃないのよ。それを聞いた会長は毎年そのイベントに顔を出すようになったんですって。当然会長賞が作られるわよね。会長賞って何だと思う?」
「賞金?」
「ブッブー」
「じゃあ何だよ?」
「遠山機械工業の会長と居酒屋で一杯」
「まさか、それ会長が言い出したんじゃないよな?」
「当たり前じゃん。社員のリクエストなんですって。あの会社天才の集まりなんだけど、子供の純真な心も持っているのよね。そこがむかつくんだけど」
「香坂、これからは遠山のやつらとかむかつくは禁句だからな」
「絶対無理」
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