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千一夜
第45章 第七夜 訪問者 戦い
「上手いもんだな。さすが野球の強豪校だ」
 遠山高獅はグランドに出てトンボ掛けをしている四人を見てそう言った。四人の生徒は自らグランドの整備をさせて欲しいと遠山高獅に頼んだのだ。
 一番背の高い生徒はマウンド付近の土を丁寧にならしていた。
「彼はピッチャーなのか?」
 咲子の父はその生徒を指さして施設管理長に訊ねた。
「○○県からスポーツ推薦で越境入学してきた生徒です」
 施設管理長はそう答えた。
「なるほど。よし、彼らをうちの食堂に招待する。呼んでおけ」
「承知いたしました」
 総務部長そう言って頭を下げると、そこにいた他の社員も総務部長に倣った。
 遠山機械工業レストラン。
「あるがとうな。君らのお陰で野球場が喜んでいる。君たちにお礼がしたい。好きなものを食べなさい。遠慮はするなよ。若いんだから腹一杯食べていきなさい」
 咲子の父は四人にそう言った。
 二人は生姜焼き定食、あとの二人はトンカツ定食を選んだ。それを見た咲子の父は、追加で生姜焼き二皿とトンカツ二皿を持ってくるように総務部の係長に命令した。
 四人は大盛りのどんぶり飯と一緒に生姜焼きとトンカツをぺろりと平らげた。遠山高獅はその様子を頬を緩ませながら見ていた。
「美味かったか?」
「ごちそうさまでした。めっちゃ美味かったです」
 四人は手を合わせてそう答えた。
 デザートのアイスクリームを食べているとき、一人の生徒が咲子の父にこう訊ねた。
「自分は勉強ができないんですが、それでもこの会社に入れますか?」
 と。
 遠山高獅がどう答えるのか、周りにいた社員も遠山の回答をじっと待った。
「無理だな」
 咲子の父はそっけなくそう答えた。しかし遠山の本当の答えはまだ先にあった。
「だが一つだけ方法がある。ききたいか?」
「はい」
 咲子の父に質問した生徒が返事をした。
「君は今世界にはどれくらいの人たちが暮らしているかわかるか?」
「人口のことですか?」
「そうだ」
「八十億人以上だと思います」
「あと数十年経つと百億を越えるそうだ」
「百億!」
 数字を聞いた生徒は驚いた。
「今君は八十億分の一の人間だ。だが、八十億分の一の君にしかできないことを見つけろ。見つけたらそれを徹底的に磨き上げるんだ。学ぶ、努力する、諦めない、そうやって強い自分を作り上げていくんだ。私はそういう人間を見逃さない」


 
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