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千一夜
第36章 第六夜 線状降水帯Ⅲ ③
「三人でやりましょうよ」
 そう伊藤を誘ったのは和子だった。そして和子はこう続けた。
「こんなチャンスは滅多にないわ、そう思わない?」
「……」
 伊藤は腹の中でにんまりと笑ったが、和子の次の言葉を待った。
「大学の教師なんてもう教師じゃないわ」
「じゃあ何なんですか?」
 伊藤はそう訊ねた。
「サービス業の従業員よ。真面目に授業を聞く学生なんてほんの一握り。だから就職するまで仕方なく教室に足を運んでくれる学生たちの世話係みたいなものよ」
「世話係?」
「そう、世話係。おりこうさんもいれば、引っ叩きたくなるクソガキもいるのよ。でも学生を叩くなんてできないでしょ? 教師が学生を叩いたら即裁判よ。勝っても負けても傷がつくのは教える側。すべてを失うわ」
「大変なんですね」
「他人事みたいに言わなわいでよ」
「すみません」
「私、女が好きなわけじゃないのよ。ただ苛めたいだけなの」
「苛める?」
「めちゃくちゃにしてやりたいの」
「……」
「引っ叩きたくなるクソガキを相手にしているとストレスがたまるのよ。だからいつもどうしたらこのストレスを発散することができるのか考えていたわ」
「大学の先生がそんなストレスを抱えているなんて知りませんでした」
「いい提案だと思うけど。伊藤君、私のストレスを解消してくれない。こればかりは伊藤君の許可が必要だから」
「許可?」
「私が勝手にあのお子ちゃまのベッドの中に潜り込めないでしょ。あのお子ちゃまは伊藤君のものなんだから」
「……」
 和子の前で否定はできない。
「ねぇ伊藤君、いいでしょ?」
「……」
 伊藤の腹は決まっていた。だが、伊藤は考えるふりをした。新しいゲームを立ち上げたのは和子だ。ゲームはベッドの中で始まるのではない。こういう交渉すらゲームなのだ。
 自分が所有している紗耶香を和子と分け合う。悪くない提案だ。というか伊藤も頭の中のどこかにそういう願望が潜んでいた。紗耶香と和子の二人を犯す。日本から遠いアトランタだからこそ、伊藤の心は大きく震えたし、防波堤はすぐに決壊した。
 スリーパーソン。一人は紗耶香でもう一人は大学教師の和子。確かにその二人と交わる機会なんてそうそうあるものではない。いや、絶対にない。アダルトビデオの世界でもこういう設定はないのではないか。
 セクシー男優になるチャンスだぞ。悪魔は伊藤にそう囁いた。
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