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千一夜
第36章 第六夜 線状降水帯Ⅲ ③
 三人で愉しむことも悪くない。いやいや悪くないどころか最高のシチュエーションだ。そして和子が言うようにこんなチャンスは二度と巡ってこないかもしれない。
 少し考えればわかることだ。五十二の現役女教師と寝ることだって簡単なことではない。そしてその教師には夫がいる(いわゆる不倫)。女教師と紗耶香と自分。それを考えただけで伊藤の股間は熱くなった。
 だから伊藤はこう言った。
「いいですよ。アトランタ最終日の記念に三人で交わる。先生、二人で愉しみましょう」
 三人ではなく二人。和子と伊藤は目を合わせてにやりと笑った。
 伊藤と和子の計画は紗耶香に知らせない。ベッドの中で伊藤と和子の顔を見たら、紗耶香はどんな反応を示すのだろうか。それを想像しただけで伊藤の肉棒に新しい燃料が送り込まれた。
 紗耶香は伊藤の言うことなら何でもきく。いやきかなければならない。伊藤は好き勝手に紗耶香を扱うことができる。それはできない、そんなことしたくないと紗耶香が言っても伊藤は許さない。
 紗耶香もまた伊藤の機嫌を損ねることは避けねばならない。法外な報酬をいまさら放棄することなどできないからだ。
 和子が三杯目のワインを飲み干した後、ショーツとブラジャーを着けただけの姿で紗耶香の部屋に向かった。それを見ていた伊藤は、グラスの安バーボンをあおって和子の後をつけた。
 紗耶香の部屋のドアが開いていた。音をたてないようにして伊藤が紗耶香の部屋に入った。和子はベッドで寝ている紗耶香の様子を窺っていた。
 和子が伊藤の方を向いてまた笑った。和子の目は伊藤にこう指示を出していた。私が最初にこのお子ちゃまをいただくわ、と。だから伊藤は和子の邪魔をしない。
 伊藤は部屋にある椅子を持ってベッドの近くにそれを置いた。そしてその椅子に腰かけた。これから和子と紗耶香の戯れを間近で見る。女同士のプレイをこんな近くで見ることができるなんて、伊藤にとっては初めての経験だった。これから始まることはすべて初体験。
 舌なめずりをするシーンを映画やドラマで伊藤は撮ったことがない。何となくわざとらしくて、それでいてそういう行為は現実離れしていると思っていたからだ。
 でも今なら舌なめずりする男の気持ちがわかる。だから伊藤は舌なめずりをした。そういう男の気持ちを今理解しておくことも、映像制作者としては大事なことだと思ったのだ。
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