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Memory of Night 2
第47章 春の訪れ

千鶴はハンドルを握りしめる。どこか苛立った様子に、ぴんとくるものがあった。
いつからオープンするのかはわからないが、亮に店を任される千鶴は、今後『経営者』側の立場になる人間だ。工場とバーではだいぶ種別は違えど、自分の今後と照らし合わせ、シビアな考え方になるのもわかる。
「今はどうしてんの?」
「……工場の経営はやめて、小さなアパートに住んでるよ」
「借金は?」
「あるだろうけど、機械をバラして売って、工場があった土地も売却したらしいから、そこまで返せない額じゃないはず。具体的な金額は知らねーけど」
「……ふーん」
「会いに行くか?」
「え……」
唐突に投げかけられたその提案に、宵は驚いて目を見開いた。
一度も会ったことはなかった。それどころか、二人の顔すら知らないのだ。桃華から話を聞くまでは、名前すら知らなかった。母方の祖父母に関しては、存在自体がまだどこか幻のように感じられた。
「……あんたもずっと会ってないんだろ?」
「いや、この前東北の病院を退院する時手続きしてもらったよ」
「……え!?」
「えって……おまえも居なくなっちまうし、引き受け人が手続きしないと退院できないからね。そら呼ぶだろ、地元だし」

