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Memory of Night 2
第46章 想い人

「トナカイみてー」
「もう……ひどいっ」
ひとしきり笑って、宵はテーブルに頬杖をついた。
「……まあでも、母さんらしいな」
あの人ならそんな無茶をやりそうな気もした。
桃華は結局自分の親も故郷も見捨てられなかったのだろう。わかり合えず一度は飛び出した東北の小さな町に、また戻る決意をしたのだ。たった一人で。
「工場を立て直したら、また二人のところに戻るつもりでいたみたい。ーー桃華さんにとっては、一生を共にするのは秋広さんだけだったはずよ」
二人の離婚は前向きな決断だった。そう言った千鶴の言葉の意味がようやく理解できた。
離婚は万が一工場が倒産してしまい借金を背負った時に、秋広や宵に負担が及ぶのを防ぐためだ。別の人を好きになったわけでも、気持ちが冷めたわけでもない。何年かかるかはわからないが、工場を立て直したら戻るつもりでいた。
ーーそれだけ知れれば充分だった。長い間くすぶり続けていた疑問がようやく晴れた。
「……そんな状況だったんだな。全然知らなかった。母さんの方のじいちゃんばあちゃんの話自体、聞いたことなかったし」
「これはわたしの推測だけど、離婚を決めた何年も前から、工場の経営不振は徐々に始まっていたんじゃないかな。工場を畳むにも、結局多額のお金がかかる。こうなることを予測して、あえて桃華さんの両親の話はしなかったんじゃないかしら」
「……なんで?」
「ーー会いたくなるでしょう? 居場所を知ったら」

