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Memory of Night 2
第46章 想い人

「で?」
「秋広さんは、そのお店のカウンターの隅で、一人でお酒を飲んでたの」
「……一人で、酒を?」
宵はますます首をかしげた。それは本当に秋広なのだろうか。
宵の知っている父親とイメージがかけ離れすぎていて、別の人の話を聞かされているような気さえした。
「それホントに親父の話だよな?」
「ええ、秋広さんの話よ」
志穂は頷いた。
「最初は特にわたし達も気にしてなくて、一人でお酒を飲みにくる人もいるんだなーって思ってたくらいだったんだけど……」
そこで志穂は不自然に間を空けた。この話を宵にしてもいいのか、少し考えているような顔だった。
やがておそるおそると言った様子で話し始めた。
「その……ちょっと様子がおかしくなってきて」
「おかしい?」
「…………泣き始めちゃって」
「……泣き始めた!?」
それはそれで、ますます状況がわからない。宵は思わず身を乗り出した。
志穂が、こくん、と頷く。
「その……ごめんね、あなたのお父さんを悪く言うわけではないんだけど、途中から号泣してて……わたし達、ちょっと怖くなってしまって。店を出たの」
「…………」
なんて最悪な出会い方だろうと思う。
一人でカウンターで飲んでいる男性客がいきなり号泣し始めたら、同じ店内にいる客は唖然とするだろう。面倒くさい酔っぱらいの典型例ではないか。そりゃ、誰だって店変えるわ、と思う。

