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Memory of Night 2
第46章 想い人

他の調度品と同じで、青い線の入ったガラスのコップは可愛くてオシャレだ。
志穂は顔をあげ、一瞬垂れ目をきょとんとさせていたが、やがて満面の笑みが浮かぶ。
「何よ、急に。幸せに決まってるじゃない!」
志穂は宵の向かいに座り、ううん、と一人首を振る。
「別に今だけじゃないわ。わたし、きっとずーっと幸せだった。五体満足で産まれて、高校まで出れて、仕事もあってーーあなたにも出会えて。他に望むものなんてないくらい」
「……でも、働き詰めだったじゃん」
「仕事、嫌いじゃなかったよ? スーパーのレジ打ちしてたでしょ? あそこの中のパンやさんが時々余ったパンわけてくれるの。家に帰れば宵が夕飯作ったり、お風呂沸かしておいてくれたし。わたしは幸せものだなーって毎日思ってた」
それは、本心だろうなと思う。
夜遅く帰ってきた志穂は、よく嬉しそうな顔で感謝の言葉をくれた。
「入院だってしてたのに?」
「そこで出会いだってあったもん。先生も看護師さんも、みんないい人だったわ。確かに外に出られないのはちょっと退屈だったけどね」
そこで志穂は思い出したように言う。
「知ってる? わたしがいた病室から、梅の木がちょうど見えるの。でも日当たりのせいか暫定をあまりしないからか、花はほんのちょっとしか咲かないんだけどね。芽は出るのよねえ」
志穂の目線が、自身のスマホへと向く。かわらず小さな寝息を立て、芽衣は眠っていた。

