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Memory of Night 2
第46章 想い人

ふいに振り向いた志穂にそう声をかけられ、四年前に思考が戻りかけていた宵ははっとした。
志穂の入院中は、そんなことばかり考えて堂々巡りしていた。
だが今の志穂は、あの頃とは違う。
「宵、聞いてる? それとも違う飲み物がいい? えっと、紅茶以外だとね……」
「アイスティーでいいよ」
宵は答えた。遠い昔の記憶に一瞬意識を持っていかれたが、志穂の表情がそれを吹き飛ばしてくれた。
目の下に多少のクマはあれど、疲れきって痩せていた頃の病的な面影は一つもなかった。その顔に安堵する。
(もう、いいか……)
宵はコップにアイスティーを注ぐ志穂の姿を眺めながら思った。
志穂に会うたびに、真っ先に体型や顔色を窺ってしまっていた。
倒れた日の、掴んだ腕の骨と筋ばかりの感触が、いつまでも忘れられなかった。
だけど今は、志穂のそばには弘行がいる。医者である彼が、一番近くで志穂のことを見守っていてくれるなら、それより心強いことはない。
必死で働かずとも、お金に困ることもないだろう。
もう無理をして体を壊してしまうことはないはずだ。
「……今幸せ?」
アイスティーをテーブルに置く志穂に、小さく問いかける。

