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Memory of Night 2
第46章 想い人

約束の日。宵は志穂がいるマンションを訪ねた。
いつもここに来るときはインターフォンを押していたが、今日は事前に志穂から着いたら電話をしてほしいとメールが届いていた。
その指示通り、オートロックのドアの前で志穂に電話をかけ、中からエントランスを開けてもらった。
エレベーターで部屋に向かうと、玄関のドアを開けて志穂が待っていてくれた。
「いらっしゃい、宵」
「久しぶり」
ニコニコと嬉しそうな様子の志穂。淡いパステルイエローのワンピース姿だった。いつもと雰囲気がなんとなく違って見えたが、おそらく髪型だろう。
だいたい志穂は肩より短い癖っ毛だったが、今は背中くらいまで伸びていて、緩く後ろで束ねていた。
「髪、伸びたな。縛ってんの珍しい」
「切りに行く暇がなくて。ーーどうぞ、上がって」
広い玄関で靴を脱ぎ、リビングへと通してくれる。
廊下を歩きながらも、志穂はしきりにスマホの画面を気にしていた。
「そんなんいじってると転ぶぞ? ……どうかした?」
「これ実は、カメラなの」
「?」
最初それがどういう意味かわからなかったが、向けられたスマホの画面を見てわかった。
画面いっぱいに映し出されていたのは、白い毛布に包まれた、小さな赤ん坊の寝顔だった。
「……可愛い」
思わず宵は呟いた。
「あなたの妹の、芽衣(メイ)ちゃん」
志穂はにっこりと微笑んだ。
名前だけは産まれた翌日に聞いていた。志穂と少し話もし、母子共に元気であること、退院の予定日、他愛ない話も。ほんの十分ほどの通話時間だったが、声が聴けてほっとしたのは確かだ。けれど、自分に妹ができたという実感はまだわかなかった。
こうして志穂と直接会って、スマホの画面越しに芽衣の寝顔を見ていると、ようやく実感が湧く。
宵の口元にも、自然と笑みが浮かんだ。
産まれて間もない新生児は、まさに天使だった。

