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Memory of Night 2
第46章 想い人

ふと、見慣れた天井と隣にあった秋広の温もりが消え、世界が反転する。
幼い宵は布団の中で体を起こした。もうそこは、部屋ではなかった。
少し遠くで、秋広が柔らかな笑顔を向けている。いつもの顔に安堵する。桃華とのことを語る時の、幸せそうな秋広の顔。だが、隣にいた女性は別の女性だった。
小柄な体躯、栗色の短い髪。その後ろ姿には見覚えがあった。
でも違う。酷い違和感に、胸の奥がざわざわした。
その時だった。
「ーー宵」
隣から聞こえた声は、秋広ではなく桃華のものだった。
桃華はその綺麗な顔をわずかに曇らせ、問いかけてくる。
「おまえさ、あたしとパパが別々に暮らすとしたらーー」
「いやだ!!」
宵は桃華の言葉を遮り、白い腕を振り払った。その場から逃げるように駆け出す。
あの日わけもわからないまま受け入れてしまった。だって、想像もつかなかった。秋広と桃華が別々に暮らすなんて。そうすることを二人が自ら望んだなんて。
今なら、そのあとの最悪な結末を知っている。
だが無情にも結末は変えられなかった。
再び景色が反転し、土砂降りの雨の中、自動車に乗り込もうとする秋広と桃華の姿が宵の目に映った。
(ダメだ)
頭の奥で警鐘がなる。
赤い信号機が青に変わり、ゆっくりと走りだす二人を乗せた軽自動車。
(行くな)
宵の視界に右側から突っ込んでくる中型のトラックが見えた。
そして、灰色の景色の中に鋭いブレーキ音が鳴り響きーー。

