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Memory of Night 2
第50章 episode of 0
「ーーそれでね、僕はつい桃華さんのところから逃げ出してしまったんだけど、夜、桃華さんが……」
そこで秋広の言葉が止まる。
すぐ横で、すー、すーと寝息が聴こえてきたからだ。
「……宵?」
秋広は、可愛い子供の名をそっと囁いた。
(あーあ、寝ちゃった)
あと少しだけ続きがあった。
毎夜恒例の、眠る前の昔話。本来なら絵本を読んでやったり童話を聞かせるのが一般的だが、秋広がする昔話はほとんど桃華のことだった。
それにも、理由がある。
秋広は宵が起きないよう、ゆっくりベッドを抜け出した。
「……そいつ、もう寝た?」
寝室のドアがそっと開いた。
桃華だった。まだ紺色の作業着姿のままだ。着替えもせずに急いで寝室に来たのだろう。
「ーーおかえりなさい。今日は早かったね、帰り。たった今寝ちゃった」
秋広の言葉に、桃華は残念そうに笑った。
足音を立てないようゆっくりとベッドに歩みより、自分とよく似た息子の顔を覗きこむ。
「ひと足遅かったか。最近寝顔しか見てねーなあ」
遠い現場が続いていた。いつも十時近くになってしまう。今日は天候の影響で比較的早く上がれたので車を翔ばしてきたが、間一髪間に合わなかったようだ。
「起こす?」
「……いーよ別に。休みの日におもいっきり構うから。どこ連れまわしてやろう」
「……それ、愛情って宵にあんまり伝わってないの気付いてる?」
秋広がやんわり指摘すると、桃華は軽く睨んでくる。
それからかがんで宵の寝顔をしばらく眺め、額をそっと撫でた。宵はわずかに身じろぎする。
そんな小さな仕草さえいとおしく、桃華自身の原動力になった。
「今日は桃華さんに出会った頃の話を宵にしたんだ」
「……バカかよ、親の馴れ初めなんかに興味ある五歳児がどこにいる」
「えー、でも僕は、桃華さんのことたくさん宵に話したいけどなあ」

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