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Memory of Night 2
第50章 episode of 0
「ーー追わないのかい?」
「……え?」
「純愛ドラマなんかじゃ、お決まりのシーンじゃないかい? ああ、でも普通駆け出すのは女性で、追いかけて腕を掴むのは男性が多いかね? ほぅら、雨なんかが降ってたりしてさぁ」
大家のトミはふぉっふぉっふぉ、と独特な笑い声をあげて、うっとりと皺だらけの目を細める。
「いやぁ、にしても壁が隙間だらけだからかね、冬は風が入ってきて寒いし、中の音も外に漏れやすくてね、そろそろ老朽化が深刻だねぇ」
自分が所有するアパートの現状を嘆きながら、トミは盛大にため息をついた。要するに、先ほどの桃華と秋広のやり取りが聴こえていたと遠回しに言ってるんだろう。
桃華はしばらく、秋広が去っていった方角を眺めていた。彼の車が発進するのを見届けはしたが、追おうとは思わなかった。
「……ばーさん、たまには寄ってく?」
「んん?」
トミはゴマのような小さな目を見開いた。
「おんや、モモちゃんが部屋に入れてくれるなんて、初めてだねぇ。今日はカボチャを煮たから、食べな」
「……鍋ごと?」
「うちはお父さんと二人だからねぇ。そんなに食べないし」
毎度、同じ言葉が返ってくる。
桃華はトミを部屋に上げ、鍋をしまおうと冷蔵庫を開けた。数秒固まる。
鍋ごとしまえそうなスペースなどなかった。秋広が冷蔵庫をパンパンにしてくれていた。
扉にはメモ書きがあった。

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